今度の日曜日には、福島県議会議員選挙があります。
昇平は今年20歳になったので、今回初めて選挙を経験します。
まあ、来年からは18歳以上からになるわけですけれどね。一足早く投票初体験です。
連日うるさいくらいに選挙カーが走り回っていて、勉強会を開いている公民館の下で選挙演説なんかされたりもして、「うわ~、早く選挙当日になってくれ!」なんて我々は考えたりするんですが、昇平にとっては生まれて初めて参加する選挙。選挙や投票とはどういうものなのか。どういう仕組みになっているのか。そのあたりをちゃんと知ってもらわなければ、と思いました。
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夕食の後、片付けを終えてから、2階の居間に上がって昇平に言いました。
「今度の日曜日に投票があるって話しておいたよね。そこで質問なんだけど、投票ってどういうものかわかる?」
「投票ってあれでしょう? えぇと、アンケートみたいな紙を出して集めて、自分たちの代表の人を決めること」
おぉ、ちゃんと本質がわかっていたか! 学校で公民や政経を教わってきたのは、無駄じゃなかったみたいだね。
そこで、数日前の新聞に載っていた県内各地区の立候補者の一覧を取り出して、我々が住む伊達市の立候補者の名前と顔写真を見せました。
ついでに、伊達市で何人立候補していて、何人当選するかも教えました。伊達市は3人の枠に立候補者は4人。選挙で政治の代表に選ばれることを「当選」と言い、選ばれないことを「落選」と言うんだよ、と説明してから、「つまり、この伊達市では4人のうちの1人だけが落選する、ってことなんだよ」と話すと――。
昇平は真剣な顔をして、「じゃあ、ぼくは一番落選しそうな弱い人に投票することにするよ」
いやいやいや。ちょっと待て、ちょっと待って。
それは判官びいきと言ってね、弱い人に心情的に味方したくなる人は特に日本人には確かに多いんだけど、選挙でそれはまずいんだよ。どうしてかというと、えぇと……
「例えばね、選挙には25歳になれば誰でも立候補することができるんだよ。でね、ここにこんなことを言う人が立候補したらどうだろう? 『あたしぃ、政治ってよくわかんないんですぅ。だけど、立候補ってヤツをしてみましたぁ。あたしはぁ、福島の人たちって地味だと思うんですぅ。だから、みんなオシャレになるといいと思いますぅ。あたしは政治家になって、みんなをオシャレにしたいと思いますぅ』 こういう人が立候補したら、昇平くんはどう思う? みんなはこの人に投票すると思う?」
昇平は、ギャル語の候補者演説に「うへぇ」という表情をしながら、「もちろん誰も投票しないだろう」。
「そうだよね。きっとほとんどの人が投票しないよね。とすると、この人は一番票の数が少ないと思うよ。つまり、さっき君が言っていた『一番弱い人』ってことになるんだよ。君はこの一番弱い人に投票したいの?」
昇平は「あっ、そうか」と気がつき、「ってことは、ちゃんといい政治をしてくれそうな人を選ばなくちゃいけない、ってことかぁ」
はい、そうです。そういうことです。
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ところが、昇平は今度は困惑顔。
ずらっと県内の候補者とプロフィールが並んだ新聞を眺めながら言いました。
「でも、これだけじゃよくわからないな。どの人に入れたらいいのか、もっとヒントはないのかな?」
「うんうん、いいところに目をつけたね。そうだよね、ヒントが欲しいよね。候補者はね、『自分が当選したらこういうことをします』っていうことを約束するんだよ。これを『公約』と言うの。 自分のごひいきの政党がある人は、政党で選んだりもするけれど、君は今回初めての選挙で、まだ応援する政党があるわけじゃないから、候補者の公約をヒントにするといいと思うな」
そんな話をしながら、今日届いたばかりの選挙公報を出して、4人の候補者の公約を確認しました。
「この人は原発事故からの復興を一番に上げてるね。この人は高齢者と子どもの対応が第一かな。この人は戦争絶対反対っていうのを強く言ってるよね……」
そんなふうに、ひとりずつの公約を確認して、その意味も考えて、昇平は自分で投票する候補者を決めました。
うん、いいね。自分で選べたね。
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投票用紙の書き方や投票のやり方なども教えた後、もう一つ、大事なことを聞きました。
「今回は投票したい人が決まったけれど、投票したい人がいない、誰にも投票したくない、ってときにはどうしたらいいと思う?」
昇平は、えっ? という顔をしてから、「そんなふうに言うからには、何かちゃんとやり方があるってことだよね……えぇと……もしかして、何も書かない?」
「大当たり!! そう。選挙で投票したい候補者がいないときに投票に行かないと、いいのかわるいのかわからないよね。『いい人がいなかったから選ばなかったんです』っていう気持ちを伝えるためにも、何も書かない白票を投票するんだよ。そうするとね、選挙のときに白票の数も数えられるから、白票が多いと、政治家たちが『どうしてこうなったんだろう?』『何がまずかったんだろう?』って考えるようになるんだよ。昇平くんが最初に言ったとおり。投票は我々が政治家に『こうして欲しい』っていうのを伝えるアンケートなんだよ」
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という感じで、我が家の選挙講座は修了しました。
ちなみに、昇平は視覚的な手助けがあったほうが理解しやすいので、政治用語などはメモ用紙に書きながら教えました。
私たちの年齢になってしまえば、「どうせ公約なんて口先だけの綺麗事なんだ」「どこに入れたって結局同じことになるんだ」なんて、拗ねたあきらめが出てきたりもするんですが、選挙権を得たばかりの昇平がそれを考えるのはもっと後のことでいいのです。
まずは民主主義政治の基本を知って、そこに投票という形で自分も参加するんだ、と感じて欲しいな、と思っています。
明後日の投票日には、昇平と私と旦那の3人で投票所に投票に行ってくるつもりです。
昇平にこれだけのことを言った手前、私たちも棄権は絶対にできません――(笑)
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