社会

2018年10月31日 (水)

新聞にてくてく日記が連載されます

2018aki


 お久しぶりです。
 掲示板では毎日近況を書いていたのですが、こちらのブログは大変ご無沙汰してしまいました。
 暑い暑い夏をやり過ごして、季節はもう秋。明日からは11月です。
 街路樹の葉も色鮮やかに変わって、風が吹くたびに散っています。

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 さて、表題の件ですが、実はちょっと誇大表記があります。

 福島民報新聞という福島県で一番売れている地方紙があるのですが、その本紙ではなく、福島民報新聞社が毎週木曜日に折り込みで発行している「情報ナビTime~たいむ~」という情報紙に、てくてく日記がコラムとして連載されるのです。
 明日11月1日から6回連載。昇平の幼少期から就労目ざしてがんばっている現在までの23年間を追いかけるので、かなりのダイジェスト版です。

 とはいえ、昇平がどうやって今のようになっていったか、進学や就労にはどんなふうにしてきたか、簡略に理解することはできるんじゃないかな、と思っています。(そのあたりがわかるように、がんばって書いたつもりです)

 コラムに添えられるカットは昇平が描きました。
 自分の好き勝手に描くのではなく、クライアントからの注文に応じて描く、ということを初めて体験しているので、これもよい経験になっています。

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 残念ながら、この情報紙は福島民報新聞を定期購読しているお宅にしか配布されないし、新聞社のホームページにも内容は載らないので、社に許可を得て、このブログ(とツイッター)に記事の写真を掲載させてもらうことにしました。
 明日11月1日の第1回分は、明後日11月2日に載せるつもりなので、興味のある方はチェックしてください。

 以上、お知らせでした。

 

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2016年9月15日 (木)

昇平と「発達障害のいま」

Books


 前回の更新からほぼ一カ月が過ぎてしまいました。
 最近は一カ月に一度程度の更新になっているので、いっそタイトルを「月刊てくてく日記」にしてもいいのかも。……というのは冗談ですが。

 このところの昇平は本当に順調で、毎朝駅まで30分近く歩いて電車で福島市まで行き、運転ができる事業所のスタッフやA型のメンバーと組んで廃品回収の業務を行い、夕方また電車と歩きで帰宅して、夜は好きなことをしてのんびり過ごして寝る……という生活を過ごしています。土曜日にも事業所のイベントに積極的に参加していて、家で過ごす時間がとても少なくなっているので、ブログに書くようなネタがほとんど見つからないのです。
 月に一度、事業所が主催する「ご家族と語る会」の際に、スタッフから昇平の様子を聞くことができるので、それをブログを書くことが多くて、結果として一カ月に一度の更新になる――というわけです。

 昨日も事業所の保護者会主催の勉強会と「ご家族と語る会」、スタッフとの個別懇談がありました。
 昇平のがんばっている様子を、今月も聞かせてもらえて、とても安心しました。
 仕事は真面目にきびきびとこなし、昼休みはお弁当の後で携帯やゲームなどで自由に過ごし、また午後の仕事に真面目に取り組む――とオン/オフの切り替えも上手にできるようになったそうです。
 先日はイベントで生まれて初めてカラオケに行って、自分でも2曲歌ったと言っていました。仕事だけでなく、いろいろな経験をすることができて、とてもいい感じです。

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 そんなふうに昇平は順調に進んでいるわけですが、そうではない事例もあるのだということを、新しく読んだ本で知りました。
 7月の記事で紹介した杉山登志郎先生が書かれた「発達障害のいま」(講談社現代新書/2011年初版)です。
 前回読んだ「発達障害の子どもたち」(講談社現代新書/2007年初版)は、発達障害という診断に関する最新の概論という感じの本でしたが、今回の「発達障害のいま」は、実際に先生の診察室にやってきた発達障害がある子どもたちの陰に、家庭の問題や虐待、トラウマが潜んでいることが少なからずあって、そちらに対する対応・治療を行わなければ、結果として子どもの問題も解決していかなかった……ということが、様々な具体例を挙げながら書かれています。
 実際にどうやって治療を成功させていったかということも書かれているので、関心がある方にはぜひ読んでいただきたいと思うのですが、私は、この2冊の本を読んで考えたことを、私の視点でまとめたいと思います。
 それは以下の3つ。


1.発達障害というのは、自閉症とかADHDとかLDとか、いろいろな診断名が付くけれど、実際のところは脳全般の活動の機能障害。

2.障害特性を無視して「矯正」しようとしても決してうまくいかない。無理解な指導や対応は後々深刻なトラウマや社会不適応を生じさせる。

3.親が発達障害の特徴を持っていたり、親自身が子どもの頃に虐待を受けていたりするケースには、子どもだけでなく親への対応も必要。子どもへの対応だけでは改善しにくい。


 1の脳の機能障害の原因は様々です。遺伝的要素があったり、昇平のように出生時のトラブルで酸欠になって脳に障害が残ったり(ただ、遺伝的な傾向も強いので、昇平の場合は「遺伝+酸欠による脳の高次機能障害」だと思われます)。虐待を受け続けることで脳が変化して、発達障害と同じ症状を示していくこともあります。
 脳梗塞で倒れた人が、その後いろいろな機能障害の症状を起こすように、彼らは生まれつき、あるいは出生時のトラブルや子どもの頃の劣悪な環境のせいで、脳にうまく働かなくなる部分を抱えるようになり、その結果、他人とのコミュニケーションがうまくできなくなったり、段取りが立てられなくなったり、片付けができなくなったり、文字がうまく書けなくなったり、うまく話せなくなったり、衝動的な行動が押さえられなくなったり……するのですよね。

 2は発達障害を脳の機能障害と捉えた上で、その凸凹を把握して対応していくのが大事だ、ということ。学校での特別支援教育の拡充は、ここに当てはまりますね。
 障害特性を無視して矯正しようとするというのは、昇平に例えてみるなら、「赤ちゃんの泣き声が苦手だということを克服させるために、赤ちゃんが大泣きしている声の録音を大音量で一日何時間も聞かせて、泣き声に慣れさせる」というやり方のこと。もちろん、そんな酷いことは一度だってやりませんでしたが。そんなことをしたら、昇平はひどいトラウマになって、後々ずっと苦しめられたでしょう。
 でも、実際にそれに近いことが行われて、そのときにはうまくいったように見えても、青年期になってからトラウマが噴出したケースも報告されているようです。

 3は、子どもが健全に発達していくためには安全安心な環境が絶対に必要だ、ということ。安全な環境だからこそ、子どもは安心していろいろ学び、自分の力を試し、成長していくことができる。いつ親から暴力をふるわれるかわからない環境で、びくびくしながら日々を過ごしていたら、学ぶことも試すことも困難になるから。そこが、よく言われる「家族支援」ということになります。
 ちなみに、私が所属している親の会の顧問で、私たちにずっとペアレント・トレーニングを指導してくださっている中田洋二郎先生のテーマは、ずばり「家族支援」です。私たちの会のお母さんたちは、障害ある子どもを抱えているのに、前向きで元気な人がとても多いのですが、それはやっぱりずっと「家族支援」の視点で指導していただいているからだろう、と思ってます。

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 本を読みながら、昇平はいい時代に生まれてきた子どもなんだな、とも思いました。
 私が大学を卒業した30年くらい前からLD(学習障害)は知られ始めましたが、「ADHDという発達障害がある!」とNHKが特集番組で報告したことから、日本の特別支援教育は爆発的広がりを見せ始めました。昇平が診断を受けるほんの1~2年前のことです。
 以来、昇平は日本の発達障害の草分けの時代を、ずっと歩き続けてきました。今の就労支援もやっぱりそうです。おかげで、若干の紆余曲折はあったけれど、昇平はこうして自立目ざして前進しています。ありがたいことだと思います。

 これから続く昇平の後輩たちのために、そして、それ以前の時代に苦労しながら自分の障害と向き合ってきた先輩たちのために、私は就労移行支援事業所保護者会の役員の仕事をがんばりたいな、とも思いました。私にできること、私にできる範囲で。
 昇平を育ててくれた社会への、ささやかな恩返しです。
 

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2015年11月13日 (金)

我が家の選挙講座

 今度の日曜日には、福島県議会議員選挙があります。
 昇平は今年20歳になったので、今回初めて選挙を経験します。
 まあ、来年からは18歳以上からになるわけですけれどね。一足早く投票初体験です。

 連日うるさいくらいに選挙カーが走り回っていて、勉強会を開いている公民館の下で選挙演説なんかされたりもして、「うわ~、早く選挙当日になってくれ!」なんて我々は考えたりするんですが、昇平にとっては生まれて初めて参加する選挙。選挙や投票とはどういうものなのか。どういう仕組みになっているのか。そのあたりをちゃんと知ってもらわなければ、と思いました。

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 夕食の後、片付けを終えてから、2階の居間に上がって昇平に言いました。
「今度の日曜日に投票があるって話しておいたよね。そこで質問なんだけど、投票ってどういうものかわかる?」
「投票ってあれでしょう? えぇと、アンケートみたいな紙を出して集めて、自分たちの代表の人を決めること」
 おぉ、ちゃんと本質がわかっていたか! 学校で公民や政経を教わってきたのは、無駄じゃなかったみたいだね。

 そこで、数日前の新聞に載っていた県内各地区の立候補者の一覧を取り出して、我々が住む伊達市の立候補者の名前と顔写真を見せました。
 ついでに、伊達市で何人立候補していて、何人当選するかも教えました。伊達市は3人の枠に立候補者は4人。選挙で政治の代表に選ばれることを「当選」と言い、選ばれないことを「落選」と言うんだよ、と説明してから、「つまり、この伊達市では4人のうちの1人だけが落選する、ってことなんだよ」と話すと――。

 昇平は真剣な顔をして、「じゃあ、ぼくは一番落選しそうな弱い人に投票することにするよ」

 いやいやいや。ちょっと待て、ちょっと待って。
 それは判官びいきと言ってね、弱い人に心情的に味方したくなる人は特に日本人には確かに多いんだけど、選挙でそれはまずいんだよ。どうしてかというと、えぇと……

「例えばね、選挙には25歳になれば誰でも立候補することができるんだよ。でね、ここにこんなことを言う人が立候補したらどうだろう?  『あたしぃ、政治ってよくわかんないんですぅ。だけど、立候補ってヤツをしてみましたぁ。あたしはぁ、福島の人たちって地味だと思うんですぅ。だから、みんなオシャレになるといいと思いますぅ。あたしは政治家になって、みんなをオシャレにしたいと思いますぅ』 こういう人が立候補したら、昇平くんはどう思う? みんなはこの人に投票すると思う?」

 昇平は、ギャル語の候補者演説に「うへぇ」という表情をしながら、「もちろん誰も投票しないだろう」。

「そうだよね。きっとほとんどの人が投票しないよね。とすると、この人は一番票の数が少ないと思うよ。つまり、さっき君が言っていた『一番弱い人』ってことになるんだよ。君はこの一番弱い人に投票したいの?」

 昇平は「あっ、そうか」と気がつき、「ってことは、ちゃんといい政治をしてくれそうな人を選ばなくちゃいけない、ってことかぁ」

 はい、そうです。そういうことです。

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 ところが、昇平は今度は困惑顔。
 ずらっと県内の候補者とプロフィールが並んだ新聞を眺めながら言いました。
「でも、これだけじゃよくわからないな。どの人に入れたらいいのか、もっとヒントはないのかな?」

「うんうん、いいところに目をつけたね。そうだよね、ヒントが欲しいよね。候補者はね、『自分が当選したらこういうことをします』っていうことを約束するんだよ。これを『公約』と言うの。 自分のごひいきの政党がある人は、政党で選んだりもするけれど、君は今回初めての選挙で、まだ応援する政党があるわけじゃないから、候補者の公約をヒントにするといいと思うな」

 そんな話をしながら、今日届いたばかりの選挙公報を出して、4人の候補者の公約を確認しました。
「この人は原発事故からの復興を一番に上げてるね。この人は高齢者と子どもの対応が第一かな。この人は戦争絶対反対っていうのを強く言ってるよね……」
 そんなふうに、ひとりずつの公約を確認して、その意味も考えて、昇平は自分で投票する候補者を決めました。
 うん、いいね。自分で選べたね。

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 投票用紙の書き方や投票のやり方なども教えた後、もう一つ、大事なことを聞きました。

「今回は投票したい人が決まったけれど、投票したい人がいない、誰にも投票したくない、ってときにはどうしたらいいと思う?」

 昇平は、えっ? という顔をしてから、「そんなふうに言うからには、何かちゃんとやり方があるってことだよね……えぇと……もしかして、何も書かない?」

「大当たり!! そう。選挙で投票したい候補者がいないときに投票に行かないと、いいのかわるいのかわからないよね。『いい人がいなかったから選ばなかったんです』っていう気持ちを伝えるためにも、何も書かない白票を投票するんだよ。そうするとね、選挙のときに白票の数も数えられるから、白票が多いと、政治家たちが『どうしてこうなったんだろう?』『何がまずかったんだろう?』って考えるようになるんだよ。昇平くんが最初に言ったとおり。投票は我々が政治家に『こうして欲しい』っていうのを伝えるアンケートなんだよ」

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 という感じで、我が家の選挙講座は修了しました。
 ちなみに、昇平は視覚的な手助けがあったほうが理解しやすいので、政治用語などはメモ用紙に書きながら教えました。
 私たちの年齢になってしまえば、「どうせ公約なんて口先だけの綺麗事なんだ」「どこに入れたって結局同じことになるんだ」なんて、拗ねたあきらめが出てきたりもするんですが、選挙権を得たばかりの昇平がそれを考えるのはもっと後のことでいいのです。
 まずは民主主義政治の基本を知って、そこに投票という形で自分も参加するんだ、と感じて欲しいな、と思っています。

 明後日の投票日には、昇平と私と旦那の3人で投票所に投票に行ってくるつもりです。
 昇平にこれだけのことを言った手前、私たちも棄権は絶対にできません――(笑)

 

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