
「花見山」の白梅 3月26日撮影
今日で3月も終わります。
昇平は毎日安定した生活を続けていて、毎朝元気に事業所へ出勤し、夕方「疲れた~」と言いながらも充実した様子で帰宅していますが、それ以外の大きな変化として「新聞」に関心を持つようになりました。
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そもそもの始まりは、長い間彼を苦しめてきたネットでの悪口雑言の数々。昇平自身は反論の書き込みをしたりはしないのですが、納得のいかないひどい内容が多いのに、反論するどころかそこに賛同するような書き込みが多いことにもまた納得がいかなくて、ひいては社会全体に対する不信・不安にまでつながっていました。
もちろん、それは情報を入れるチャンネルが偏っているから起きることなので、私たちとしても「それは一部の人たちだから」「冗談で大袈裟に言っているだけだから」と説明してきたわけですが、それを実際に確認する手段もないので、ずっともやもやしたものを引きずっていたようで、ときどきフラッシュバックのように吹き出しては、昇平を不安定にしてきました。
そんな際のやりとりの中で、私が「現実の社会においては、そんなのは本当の一部分なんだよ。それを知りたかったら新聞でも読めば」と言ったら、昇平は一瞬考えてから、「うん、それじゃ新聞を読んでみる……お母さん、読んでくれる?」と言うではありませんか。
新聞は情報量が多いので、いきなり彼に渡しても、文字がびっしり並んだ紙面に圧倒されて理解できないだろう、と思ったので、「いいよ、読んであげるよ」と引き受けました。
かくて、夕食の片付けが終わって2階にあがったところで「新聞タイム」となりました。
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我が家で購読しているのは、地方紙の「福島民報新聞」です。
テレビの全国ニュースもそうなのですが、中央紙になると、どうしても日本中で大きな話題になったニュースを取り上げることが多くなります。そうすると、凶悪事件やびっくりするような大きな事故、事件、政治の不正の問題や海外のテロなど、不安をあおるような内容が増えてしまいます。
でも、地方紙の場合は、もっと身近な、本当に自分の生活に即したニュースがたくさん載ります。ほのぼのした話題や、ちょっとした集まりや活動の報告もいろいろ載るし、福島県の場合、なんと言っても「震災復興」の記事が非常にたくさん載ります。
実際に自分が暮らす社会を実感するには、地方紙の方が適切、という判断もありました。
読みました。
第一面のトップニュースから始まって、国際情勢、経済欄、家庭欄、地方のニュース、社会欄……。
書かれていることをそのまま読んでも理解が難しいと思ったので、内容をかいつまみ、わかりにくいと思われることには解説をしたり、経緯を説明したり、ときには質問を投げかけてみたり。
その日の新聞には韓国で沈没した旅客船セウォル号が引き上げられたというニュースも載っていました。
セウォル号では船長をはじめとする乗組員が乗客を置き去りにして我先に逃げてしまったこと、修学旅行の高校生が大勢乗っていて、その多くが亡くなったことを説明すると、真剣な顔で耳を傾けて「怖いな」と言いました。
冬の間閉鎖されていた観光道路の除雪が進んでいるというニュースには、道路脇に6メートルもの雪の壁ができていると聞いて、「すごい! 行ってみたいな!」と目を輝かせました。
全部読み聞かせるのに30分以上かかりましたが、その間、時々ゲーム画面を眺めながらも、耳はこちらに傾けていて、全部聞き終わると言いました。
「この世界では本当にいろいろなことが起きてるんだね。なんだか安心したな」
「ネットでよく聞くようなことばが全然なかった」とも言いました。
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以来、毎晩夕食後に新聞の読み聞かせをするのが習慣になっています。
本人が「今夜も新聞を読んでもらえる?」と言ってくるのです。
なので、私のほうも、何年ぶりかで新聞を隅から隅まで読むようになりました。
為替相場や粉飾決算の話などは、ニュースとしては大きく取り上げられているけれど、昇平にはまだわかりにくいのでパスしますが、それ以外のところは、見出しだけでも読んでやるようにしています。
昇平としては、やはり、若者や子どもを巻き込んだ事件、事故に対する関心が高くて、那須スキー場での雪崩事故にも「怖いね」と言いました。私も「本当に痛ましいよね」と答えました。
その一方で、美味しそうな記事や楽しそうなニュースにも関心は高く、昨日は、ナポリタン選手権に出場が決まったという、ナポリタンスパゲティとインドカレーの合い盛りに、「食べてみたい~」と言いました。
その日の新聞の中でどの記事が一番印象に残ったか最後に聞くのですが、トップニュースではない、身近なニュースに関心を持つことも多くて、こちらとしても面白く感じています。
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そんなこんなを続けているうちに、昇平はラジオやテレビのニュースにも関心を示すようになってきました。
これまでは流れていても我関せずと言う感じで無関心でいるか、目にしてしまった映像にショックを受けて不安定になるかだったのですが(だから、昇平が来るとテレビのニュースを消していた時期もありました)、今はじっと耳を傾けて、自分なりの感想を言うようになってきました。
不安になるような内容のニュースのときにも、「でも、世の中はそういう悪いことだけじゃないと思うんだ」と言うようになってきています。
新聞に載っている膨大なニュースから、世の中では悲喜こもごも、様々なことが起きているのだということを、少しずつ実感してきているのだと思います。
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昇平のそんな様子を旦那に話して聞かせたら、「ほう」と感心した後で、「でも、最近は新聞を全然読まない若者が増えてるよな。で、スマホでネットばかり見てるわけなんだが、ネットはどうしても情報量が少なくて、しかも偏ってるから、これまでの昇平のように社会をきちんと理解できないでいるヤツもけっこう増えてるんだと思うぞ」と言いました。
それは……確かにそうなのかも。
広汎性発達障害のために、生まれたときから社会を理解することに困難を抱えている昇平。
でも、その障害で苦しい思いをしてきているからこそ、いま彼は自分からがんばって社会を理解しようと努力しています。
我が子ながら、偉いなぁ、と思う一方で、彼よりもっと楽に社会が理解できるのにそれをやらない若者が増えているという事実に、なんとも複雑な気持ちになったりもしたのでした。
難しいですね。
【写真の解説】
福島の「花見山」が明日4月1日から観光シーズンをスタートします。
「福島に桃源郷あり」と言われた花の名所に一足早く行ってきたのですが、白梅が満開で、山全体が梅の花のいい香りに包まれていました。桜の見頃は4月中旬頃のようです。
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