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2016年9月

2016年9月15日 (木)

昇平と「発達障害のいま」

Books


 前回の更新からほぼ一カ月が過ぎてしまいました。
 最近は一カ月に一度程度の更新になっているので、いっそタイトルを「月刊てくてく日記」にしてもいいのかも。……というのは冗談ですが。

 このところの昇平は本当に順調で、毎朝駅まで30分近く歩いて電車で福島市まで行き、運転ができる事業所のスタッフやA型のメンバーと組んで廃品回収の業務を行い、夕方また電車と歩きで帰宅して、夜は好きなことをしてのんびり過ごして寝る……という生活を過ごしています。土曜日にも事業所のイベントに積極的に参加していて、家で過ごす時間がとても少なくなっているので、ブログに書くようなネタがほとんど見つからないのです。
 月に一度、事業所が主催する「ご家族と語る会」の際に、スタッフから昇平の様子を聞くことができるので、それをブログを書くことが多くて、結果として一カ月に一度の更新になる――というわけです。

 昨日も事業所の保護者会主催の勉強会と「ご家族と語る会」、スタッフとの個別懇談がありました。
 昇平のがんばっている様子を、今月も聞かせてもらえて、とても安心しました。
 仕事は真面目にきびきびとこなし、昼休みはお弁当の後で携帯やゲームなどで自由に過ごし、また午後の仕事に真面目に取り組む――とオン/オフの切り替えも上手にできるようになったそうです。
 先日はイベントで生まれて初めてカラオケに行って、自分でも2曲歌ったと言っていました。仕事だけでなく、いろいろな経験をすることができて、とてもいい感じです。

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 そんなふうに昇平は順調に進んでいるわけですが、そうではない事例もあるのだということを、新しく読んだ本で知りました。
 7月の記事で紹介した杉山登志郎先生が書かれた「発達障害のいま」(講談社現代新書/2011年初版)です。
 前回読んだ「発達障害の子どもたち」(講談社現代新書/2007年初版)は、発達障害という診断に関する最新の概論という感じの本でしたが、今回の「発達障害のいま」は、実際に先生の診察室にやってきた発達障害がある子どもたちの陰に、家庭の問題や虐待、トラウマが潜んでいることが少なからずあって、そちらに対する対応・治療を行わなければ、結果として子どもの問題も解決していかなかった……ということが、様々な具体例を挙げながら書かれています。
 実際にどうやって治療を成功させていったかということも書かれているので、関心がある方にはぜひ読んでいただきたいと思うのですが、私は、この2冊の本を読んで考えたことを、私の視点でまとめたいと思います。
 それは以下の3つ。


1.発達障害というのは、自閉症とかADHDとかLDとか、いろいろな診断名が付くけれど、実際のところは脳全般の活動の機能障害。

2.障害特性を無視して「矯正」しようとしても決してうまくいかない。無理解な指導や対応は後々深刻なトラウマや社会不適応を生じさせる。

3.親が発達障害の特徴を持っていたり、親自身が子どもの頃に虐待を受けていたりするケースには、子どもだけでなく親への対応も必要。子どもへの対応だけでは改善しにくい。


 1の脳の機能障害の原因は様々です。遺伝的要素があったり、昇平のように出生時のトラブルで酸欠になって脳に障害が残ったり(ただ、遺伝的な傾向も強いので、昇平の場合は「遺伝+酸欠による脳の高次機能障害」だと思われます)。虐待を受け続けることで脳が変化して、発達障害と同じ症状を示していくこともあります。
 脳梗塞で倒れた人が、その後いろいろな機能障害の症状を起こすように、彼らは生まれつき、あるいは出生時のトラブルや子どもの頃の劣悪な環境のせいで、脳にうまく働かなくなる部分を抱えるようになり、その結果、他人とのコミュニケーションがうまくできなくなったり、段取りが立てられなくなったり、片付けができなくなったり、文字がうまく書けなくなったり、うまく話せなくなったり、衝動的な行動が押さえられなくなったり……するのですよね。

 2は発達障害を脳の機能障害と捉えた上で、その凸凹を把握して対応していくのが大事だ、ということ。学校での特別支援教育の拡充は、ここに当てはまりますね。
 障害特性を無視して矯正しようとするというのは、昇平に例えてみるなら、「赤ちゃんの泣き声が苦手だということを克服させるために、赤ちゃんが大泣きしている声の録音を大音量で一日何時間も聞かせて、泣き声に慣れさせる」というやり方のこと。もちろん、そんな酷いことは一度だってやりませんでしたが。そんなことをしたら、昇平はひどいトラウマになって、後々ずっと苦しめられたでしょう。
 でも、実際にそれに近いことが行われて、そのときにはうまくいったように見えても、青年期になってからトラウマが噴出したケースも報告されているようです。

 3は、子どもが健全に発達していくためには安全安心な環境が絶対に必要だ、ということ。安全な環境だからこそ、子どもは安心していろいろ学び、自分の力を試し、成長していくことができる。いつ親から暴力をふるわれるかわからない環境で、びくびくしながら日々を過ごしていたら、学ぶことも試すことも困難になるから。そこが、よく言われる「家族支援」ということになります。
 ちなみに、私が所属している親の会の顧問で、私たちにずっとペアレント・トレーニングを指導してくださっている中田洋二郎先生のテーマは、ずばり「家族支援」です。私たちの会のお母さんたちは、障害ある子どもを抱えているのに、前向きで元気な人がとても多いのですが、それはやっぱりずっと「家族支援」の視点で指導していただいているからだろう、と思ってます。

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 本を読みながら、昇平はいい時代に生まれてきた子どもなんだな、とも思いました。
 私が大学を卒業した30年くらい前からLD(学習障害)は知られ始めましたが、「ADHDという発達障害がある!」とNHKが特集番組で報告したことから、日本の特別支援教育は爆発的広がりを見せ始めました。昇平が診断を受けるほんの1~2年前のことです。
 以来、昇平は日本の発達障害の草分けの時代を、ずっと歩き続けてきました。今の就労支援もやっぱりそうです。おかげで、若干の紆余曲折はあったけれど、昇平はこうして自立目ざして前進しています。ありがたいことだと思います。

 これから続く昇平の後輩たちのために、そして、それ以前の時代に苦労しながら自分の障害と向き合ってきた先輩たちのために、私は就労移行支援事業所保護者会の役員の仕事をがんばりたいな、とも思いました。私にできること、私にできる範囲で。
 昇平を育ててくれた社会への、ささやかな恩返しです。
 

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