「ヒムカシの国」PDFファイル
今回は異様に早くPDFファイル化。
外伝14「ヒムカシの国」をPDFファイルのページに収録しました。
さあ、これで全部終わった!
今度は――の原稿だ!!(^◇^;)
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今回は異様に早くPDFファイル化。
外伝14「ヒムカシの国」をPDFファイルのページに収録しました。
さあ、これで全部終わった!
今度は――の原稿だ!!(^◇^;)
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お待たせいたしました。
「フルート」外伝14話 「ヒムカシの国」 をアップしました。
今回は、いつの、誰の、どんな物語か。それは読んでのお楽しみ。
それでは、どうぞ~♪
http://asakuratosho.sets.ne.jp/tosyo/fllute_gaiden/flute_gd14.htm
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予定していた別原稿の執筆が連休明けになったので、その前に外伝を書いてしまうことにしました。
いや、のんびり休んで英気を養おうかとも思ったんですけどね。
休んでいたら、やたらと切なくなっちゃって~。
なんか、恋人と離ればなれになってる人間みたいに、切なくて切なくて切なくて切なくて。
「書きたいよ~。書いていたいよ~」と。(笑)
ワーカホリックということばはあるけれど、私のような状態はなんて言うのだろう?
ライトホリック? ノベルホリック??
ちょっと長い作品です。
完成まで少し時間がかかりますが、お楽しみに。
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「12」の読み返し・推敲に先立って、外伝「13」の推敲作業中です。
ただいま7章目。
…………ランちゃん、楽しそうね。(^_^;
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お待たせしました!
外伝集「星語りの窓辺」に、第13話「金陽樹の城」をアップしました!!
http://asakuratosho.sets.ne.jp/tosyo/fllute_gaiden/flute_gd13.htm
いや~、かかったかかった。
まさか自分でも外伝書き上げるまでに、こんなに時間がかかるとは思わなかったわ。
「12」が完結したのが3月3日だったから、実に一ヵ月が経過してるじゃない。まったくもう~……。
久しぶりの「フルート」をお楽しみいただけたら嬉しいです。
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お~またせしましたぁ~……!!!!!
どうやらやっと「12」の外伝が書き上がりそうです。
現在最終章。
何時頃になるかは、はっきりしませんが、明日には公開できるだろうと思います。
ふわぁ、かかったなぁ。実に一ヶ月だわ。
長らくお待たせして、本当にすみませんでした。
誰のどんな物語かは、明日になってのお楽しみ。
読み応えはあります。たぶん。
ということで、明日をお待ちください――。
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番外編、書いてます。
書いてますが――まだ終わりません。
な~がい~…………(苦笑)
れっきとした短編になっています。
「薔薇の使節団」くらいの長さになるかなぁ。
まだもうちょっとかかります。すみません、お待ちください。
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すいません。外伝の執筆、進みません。
いえ、スランプというわけではないのですが、どうも集中が。
カレンダーのせいもありますね。子どもの春休みは火曜日からだけれど、実質昨日から休みに入っているようなものだし、その前もインフルエンザの流行で短縮授業・部活なしで帰ってきたし。
なんだか落ち着かないというか、ざわざわと気持ちが執筆に向かっていません。
ついでに、なんだかやっぱり疲れてます。う~ん……。
とりあえず、昼食の後で昼寝をします。
すみませんが、今しばらくお待ちください。
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さぁ~て、超多忙な期間も終わったので、いよいよ「12」の外伝に取りかかりました。
今日の午後から書き始めています。完成まで三日くらいはかかると思いますが。
今度の物語は、誰のどんなお話でしょう。
皆様、どうぞお楽しみに♪
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サイドストーリーの中で完成度の高いもの――つまり、作品として読んである程度以上の読み応えがあるものだけをピックアップして、外伝集に再編成しました。
☆フルートの冒険外伝集 「星語りの窓辺」
http://asakuratosho.sets.ne.jp/tosyo/flute-gaiden.htm
後からシリーズを読み始めた方には、どの作品がどれの外伝かわかりにくいと思ったので、その説明も添えました。
NEWVELさんのランキングボタンだけは旧サイドストーリーのままになっていますが、今月新作をアップしているので、来月1日にその結果を確認してから、外伝の方で登録し直そうと思っています。
さぁ~て、明日からはいよいよ「11」のPDFファイル化作業だわ。
あ、喪中はがきも印刷しなくちゃ。「10」の印刷もいい加減やらなきゃ。(「11」ではなく「10」!)
まだまだやることは山積みだ。がんばるぞ~~!!!
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サイドストーリー17話「森の奥に住むものは」の推敲も完了しました。
さあ、これで推敲作業は一通り完了~。
この後、サイドストーリーを、完成度の高い作品だけを残して、「外伝集」という名前にまとめ直すつもりです。今回の「SS17」はもちろん残りますが。(笑)
本編では脇役になっている人たちが、それぞれに抱えている人生ドラマ。そんなのを集めた外伝集にする予定です。
……「SS17」を推敲しての私の感想は、コメント欄の方で。(笑)
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サイドストーリー17話 「森の奥に住むものは」 をアップしました。
http://asakuratosho.sets.ne.jp/tosyo/flute_side/flute_side17.htm
私にしては、ちょっと変わったタイトルのつけ方ですね。さあ、誰のどんな物語でしょうか?
いつの間にか、サイドストーリーも17話まで来たんだなぁ、と思っています。増えましたよね。
最近は脇役にスポットを当てた短編という形で定着したので、そのうち、作品として完成度の高いものに絞って整理したいとも考えています。
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サイドストーリー第17話を執筆中です。
あと一日で書き上がるかな~。
明日中に公開できるといいな、と思うのですが。
さて、今回は誰のお話でしょうか。お楽しみに。
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真面目に作業中です。(笑)
サイドストーリー16話の「ユリスナイ」を縦書き二段組のPDFファイルにしてアップしました。
そうしたら――これまでのすべてのファイルにノンブル(ページ数)の間違いがあったことを発見! きゃ~!! と叫びながら修正しました。気がつかない時って、いつまでたっても気がつかないものなんですねぇ。まいった。(苦笑)
最近のPDFファイルのサイズが大きめだったので、改めて普通のPDFファイルに入れ替えました。これでサイズダウン。ただ、「フルート9」だけは今、昇平に読み聞かせていて間違いを見つけている最中なので、それが終わってから、もう少し小さいサイズのPDFファイルと入れ替えます。
結局、直接PDFファイルの修正ができる「JUST PDF」で作成したファイルが、どうしてもサイズが大きくなるんですね。機能が上がればサイズも上がるのは当然ですが、やっぱりダウンロードするには小さめの方が、と思いましたので……。
さあ、ではいよいよ「10」のPDFファイル化。
いや、でも眠い。今朝、早々と昇平に起こされたから。先にちょっとお昼寝しようっと……。(笑)
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順番から言うと、「10」の推敲から取りかかるべきなんですが、長さの関係で、まずサイドストーリー16話「ユリスナイ」の推敲を終えました。これにて、この作品は脱稿。
本当に、ずっと書きたかった物語だったので、読み返してもやっぱり楽しかったです。書けて良かった!
ちろっと裏話を書きたいのですが、それはコメント欄で。(笑)
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大変お待たせ(?)しました。サイドストーリー第16話「ユリスナイ」です。
http://asakuratosho.sets.ne.jp/tosyo/flute_side/flute_side16/flute_side16-00.htm
ずーっと書きたかった話でした。
サイドストーリーと言うより、もう完璧に短編という長さですが、お読みいただけると嬉しいです。
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サイドストーリー16話、順調に進行中です。
明日公開になるんじゃないかな、と思います。たぶん……。
長いです。
サイドストーリーというよりも、ほとんど本編番外編。
覚悟してお待ち下さいませ。(笑)
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こんばんはー。朝倉です。
いよいよサイドストーリーを書き出しました。
長い作品なので、数日かかるだろうとは思いますが。
いつもなら、「読まなくても本編はわかるけど、読むと2割り増しくらい楽しめるかも」と言うところなんですが、今回の作品は、「できれば読んだ方がいいと思いますよー」です。それも、「できる限り『10』を読んだ後で」。そのほうが、より良く理解できると思います。
わお、思わせぶり。(爆)
こちらのほうの進行状況もここでお知らせしていきますので、お待ち下さいませ♪
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サイドストーリー15話「薔薇の使節団」の推敲が終わりました。
さあ、これでこの物語は脱稿。う~ん、SS(サイドストーリー)は楽だなぁ。
「その4」の場面に、ちょろんと書き加えたところがあります。
ほんのちょっぴりなんですが、どこがどう増えたかわかるかな~?(笑)
さあ、そして、明日からはいよいよ「9」の推敲です。
それから、いつものPDF化作業。
それも完了したら、「10」の連載を開始します。予定としては5月中旬頃でしょうか。
タイトルももう決まっているのだけれど、それは「9」が脱稿してから。
ふふふ……頭の中ではもう物語とキャラクターたちが動き出しています。また大暴れしそうな予感です。(笑)
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お~待たせい~たしましたぁぁ~……。
ようやくサイド・ストーリー第15話を書き上げました。
いやぁ、予想以上に本格的な作品になってしまったので、時間がかかった、かかった。(苦笑)
だけど! その分、読み応えはあります。はい。それは絶対に。
では、「仮面の盗賊団」に続くサイド・ストーリーをどうぞ。
☆サイドストーリー第15話 「薔薇の使節団」
http://www.sets.ne.jp/~asakura/tosyo/flute_side/flute_side15.htm
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もうちょっと!
サイドストーリー15話完成まで、あともうちょっとです!
あとほんの数行。
でも、夕飯の買い物と食事の支度が~……!!(苦笑)
ということで、今夜中には必ず。
もうちょっとだけ、お待ちくださいませ。(m_m)
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なっ、長い~~~!!!
書いてます。サイドストーリー、書き進めてるんですが。
すっごく、長い。(爆) も、完璧短編です。
サイドストーリーで最長だった「銀の占い師」よりも長くなりますね。
なので、完成までにはまだもう少しかかるなぁ~。
今日中は無理かも。でも、明日にはきっと。
読み応えはあります。
それだけは、約束します。(笑)
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いやぁ、楽しゅうございますわ。
執筆執筆、るんるんるん♪ 私はやっぱり書いているときが一番幸せです。(笑)
誰の、どんな話かは、書き上がってからのお楽しみ。
うまくすれば、明日中には完成するかな~。ちょっと長いから、土曜日あたりまでかかるかな?
でも、その分、読み応えはあると思いますので、どうぞお楽しみに。
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さあ、書いた! やっと書いた!
☆サイドストーリー第14話 「幼なじみ」
http://www.sets.ne.jp/~asakura/tosyo/flute_side/flute_side14.htm
ロムド軍に入隊するためにシルの町を旅立つ際の、ジャックの物語です。(笑)
一番最初の物語から登場していたこの子。な~んとなく気になって、主にサイドストーリーで追いかけ続けて、とうとうこんなところまで来ました。
本編の中には登場しない、舞台のちょっと外側の物語。
合わせてお楽しみいただければ幸いです。
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予告しておこう。
サイドストーリー14話、たぶん今日中に公開になります。
誰のどんな物語なのかは、読んでのお楽しみ。
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「8」のPDFファイル化作業を進めていますが、それだけでは退屈なので、サイド・ストーリー第13話「二人旅」の推敲をしました。
サラとビョールの物語ですね。
ちょっと間をあけて読み返したわけですが……いやん、もう! 自分の作品なのに、なんだか泣きそうになっちゃった!
んっとに、おめでたい作者なんだからぁ~。(苦笑)
ずっと書きたかったんですよね。ゼンの両親の話。
寡黙で無愛想なドワーフのビョールと、おしゃべりで底抜けに明るい人間のサラ。この親にしてこの子あり、の証明の物語。(笑)
サラはビョールやゼンの中でずっと生き続けてるなぁ、と思います。
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昇平に「7」を読み聞かせているうちに、「そういえば、この話をまだ書いてなかった」と思い出したサイドストーリーです。
ビョールとサラの物語、と聞いて、誰の話かわかるかなぁ?
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本当は、今月いっぱいはいろいろな整理と準備の期間に当てて、サイド・ストーリーを書き出すのは来月になってからの予定にしていました。
が――。
やっぱり退屈でしかたなくて、つい書いてしまいました~!!!(爆)
☆サイド・ストーリー第12話 「見送る者」
http://www.sets.ne.jp/~asakura/tosyo/flute_side/flute_side12.htm
です。
フルートたちが薔薇色の姫君の戦いを終えて家へ帰っていった6日ほど後の、ゴーリスとユギルの話です。
物語と言うほどのものではありませんが……ロムド城では、こんな会話がなされていた、ということで、皆様も退屈しのぎにお読みいただければ、と思います。(m_m)
これ以外のサイド・ストーリーは12月になってから書く予定です。(た……たぶん……)
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サイドストーリー第11話「銀の占い師」の推敲作業を終えました。
時間が迫っている中で書き上げてアップしたものだったので、いつになく誤字や文章の乱れが多かったですね。失礼いたしました……。(恥)
「時の王」「雪の空」「マグノリア」の推敲はすでに終えているので、これでやっとすべてのサイドストーリーの見直しが終わりました。あー、やれやれ。……でも、私が見逃しているおかしな部分があったら、教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
さて、いよいよ「フルート6」の読み返しです。書き上げてから初めて、作品を「通し」で読むことになります。この作業をする頃には、いつもほどよく内容を忘れているので、かなり客観的な目になっていて、他人の作品を読むような感じになることが多いです。そうやって読んだときに、「6」がどんな作品に見えるか……。こんな下手くそな作品を書いていたのか、と落ち込むこともあるだけに、不安な気持ちもあります。う~む、どきどきする。(笑)
でもまあ、楽しみながら作業を進めようと思います。そうしながら、「7」の準備です。がんばるぞー!
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大変お待たせいたしました。サイドストーリー第11話、たった今アップいたしました。
今回も読み応えあると思います~。
誰の物語かはすでに書いていましたが、このタイトルを見れば、さらに歴然ですね。(笑)
さあ、これでサイドストーリーは全部書き終えました。次はいよいよ――
げ、明日の親の会の支部懇親会の準備だわ。今夜中に印刷しなくちゃならないものが……山ほど。(汗)
それがすんだら、「フルート6」の推敲とPDFファイル化。
そして、それも終わったら、今度こそ本当に「フルート7」です。
が~んば~るぞ~……っと!
それまでの間、皆様はサイドストーリーをお楽しみくださいませ。(m_m)
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サイドストーリーが、すごく長く本格的になってます。れっきとした短編。
書いてます。書き続けてます。今日中に書き上げたい。
なので、エールをください~! エネルギーがほしいっ!!
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サイドストーリー第11話、書き進んでます。
ただ、今日中には書き上がりません。同時進行の仕事のせいもありますが、なにより、私が楽しんで書いちゃっているから。急いで書き終えるのがもったいな~い!(爆)
ま、明日には完成すると思いますが。
スピードに乗った怒濤の執筆も良いものですが(笑)、こういうのんびり進める執筆もいいもんだなぁ、などと考えています。(笑)
明日の公開をお楽しみに。
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やるべき仕事を、できるところまで片付けたぞ!
後はフリータイムだ~!!
今日中の完成は無理だけれど――さあ、ユギルのサイドストーリー2つめを書き出しましょうかねぇ。(笑)
本当にもう、私は書くことが好きなんですよ。書いてないと、一日がもの足りなくてしょうがない。執筆中毒? そんな感じかも。(爆)
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おっ、お待たせしました。
サイドストーリー第10話「マグノリア」、ようやく書き上がりました。
いや~、予定より時間がかかったわ~。でも、読み応えはあると思います。
ユギルの少年時代の物語です。くらげさんの「少年」の絵がばっちり合っています。(笑)
良ければ、そちらも併せてご覧ください。
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サイドストーリー第10話を執筆中です。
でも、かなり長くなって、間もなく「ジュリア」を越えてしまいます。いや、わかっていたことではあったんですが。だって、「あの」ユギルの物語だもの。(爆)
今日はこれから病院へ行ってこなくちゃなりません。そんなこんなで、今日中の完成は無理でしょう。明日の午前中ですね。もうちょっとだけ、お待ちください。
それが終わったら、「フルート6」の推敲とPDFファイル化。それも終わったら、いよいよ「フルート7」です。こちらのほうも、お楽しみに♪
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予定通り、ココログのメンテナンスが15時で終了しました。
時間通り終わってくれてよかった~! どうもブログが書けない、コメントできないと思うと、それだけでストレスが募ってしまって……。(笑)
ただ今、三つめのサイドストーリーを書いております。はい、今度こそユギルの物語です。でも、なかなか進みません。日中は集中できないです~。(苦笑) 明日の早朝に期待ですね。
昇平のところに、お友だちが兄弟で遊びに来ています。なかなかスムーズに一緒に遊べなくて、昇平がかんしゃくを起こしたりしていたのですが、少し前から、やっと自然に遊べるようになってきました。今は、おやつを食べながら、ポケモンカードで遊んでます。やれやれ。(^_^;)
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うわぁぁ、やっと書き上がったぁぁぁ!!!
思ったより時間がかかってしまいました。
昇平を寝かしつけなくては~。
とりあえず、今はこれで。お休みなさい~!! ばたばたばた。
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あと、もう少しで二つめのサイドストーリーが書き上がるんですが、買い物と夕飯の支度の時間になってしまいました。続きはまた今夜~。
明日の午後からブログが24時間のメンテナンスに入ってしまうので、今夜のうちには絶対にアップしいます。(宣言!)
ということで、今しばらくお待ちのほどを。
え、何の話かって?
ユギルの話では、まだ、ないです。
思わせぶり。もったいぶり。出し惜しみ~。(笑)
でも、この話もきっと、楽しめるんじゃないかと。 もっと思わせぶり。(爆)
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さて、今までサイドストーリーは「rakugaki」というタイトルで一度ここにアップしてから、ホームページのサイドストーリー集の方に収録してきたのですが。
第8話目を書き上げてみたら――
いやはや長いっ! 立派に短編になってしまっていましたっ!!
これをブログにはっつけたら、あまりにも長文で重たくなる。ページをスクロールするだけでも、さあ大変。(「ゴーリス&ジュリア」の時、大変だったでしょう? 笑)
というわけで、今回のサイドストーリーは最初からホームページの方に収録して、ブログにはそのお知らせだけ載せることにしました。
こちらです。
↓
サイドストーリー「金の石の休日」第8話」
「時の王」
タイトルでおわかりのように、時の翁の思い出話です。お時間があれば、ご覧くださいませ。
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rakugakiで書いたグランツ&レンラの物語を、「フルート」のサイド・ストーリー集の方へ収録しました。タイトルは「占い姫」です。
http://www.sets.ne.jp/~asakura/tosyo/flute_side/flute_side07.htm
あ、ちなみに私は、物語の長さや完成度で呼び分けしています。 エピソード<話<物語 の順番で完成度が上がっていきます。第6話の「ジュリア」なんかも立派な物語。この後、多分、「6」完成後に占い師ユギルのサイド・ストーリーも書くだろうけれど、これも「物語」になりますね。かなり長くなりそう。(笑)
サイド・ストーリーは、読まなくても本編は理解できるものの、読んでおけば本編を20%増しくらいで楽しめる、というところでしょうか。本編を考えるに当たっての設定や背後関係、過去の出来事になるので、絶対本編にも絡んでくるんですよね。どこにどう絡んでいるかを読みとる――というのは、マニアックな楽しみ方。(爆)
まぁ、お好きなようにお楽しみくださいませ。
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北の大地は白い世界です。一年中ブリザードが吹き荒れ、決して溶けることのない雪と氷が見渡す限り広がっています。真夏にさえ氷点下が続く、厳寒の世界なのです。
けれども、その世界にも人は住んでいました。うさぎのような耳をして、体を毛におおわれているトジー族です。彼らは北の大地に適応して、長い年月の間に体を変化させてきたのでした。
彼らは氷を削った家に住み、村や町を作って助け合っていました。その中でも一番大きな町がダイトです。千人を超すさまざまな職種の人々が、賑やかに暮らしています。
「今日も大猟だったねぇ」
ダイトに向かって雪原を走るそりの中で、女が言いました。長い耳をしたトジー族で、分厚い毛皮の服を着込んでいます。フードから突き出た耳とフードの奥の前髪は、輝くような銀色です。灰色の瞳がそりの中の獲物を眺めていました。銀ギツネ、キタウサギ、雪オオカミ……何頭もの死んだ獣が積み込まれています。
話しかけられた男が、御者席から振り返って、にやっと笑いました。こちらも分厚い灰色の毛皮を着込んでいますが、長い耳はありません。フードの奥には茶色がかかった赤い髪とひげが見えます。背は高くないものの、とてもがっしりした体格をしているのが、毛皮の上からでもわかります。この北の大地には住んでいるはずのない、ドワーフの体つきです……。
「おまえの占いのおかげだぜ、レンラ」
と男は女に言いました。
「大したもんだよな。おまえが水晶玉で占ったことは、なんでも百発百中だ。おかげで俺はいつ狩りに出ても外れ知らずだ。上物ばかり仕留められる」
すると、レンラと呼ばれた女が笑いました。鈴を転がすような声が響きます。
「あたしは獲物が現れる場所を教えてあげられるだけさ。そいつを仕留められるかどうかは、あんた次第。あんたの猟師の腕がいいんだよ、グランツ」
ふふん、とドワーフの男も笑いました。得意そうな顔です。その背中には短い弓と矢を入れた矢筒がありました。ドワーフは普通地下から貴金属を掘り出し、それを加工して生活するのですが、彼は非常に珍しいことに、猟師を生業にしているのでした。
ダイトの市場で獲物を金に換えた後、彼らはまたそりを走らせました。そりを引く灰色のトナカイが、氷の路面に蹄の音を響かせます。通りもそこに面した建物も、すべて氷を削り出して作られています。白、白、白……白一色の世界です。
男はそりの手綱を握りながら、しばらくその景色を黙って眺めていましたが、町を抜けて再び雪原に出ると、ふいに口を開きました。
「俺は山へ帰ることにした」
トジー族の女は驚きましたが、すぐに小さく笑って、うなずきました。
「きっと、そう言い出すだろうと思ってたよ」
「止めないのか?」
男が意外そうな顔になって聞き返します。
「止めたら残ってくれるのかい? あんたはいつか、この北の大地から去っていく。それはあたしの水晶玉にもちゃんと映っていたんだよ」
妙に明るすぎる声でした。作り笑いの声です。
レンラ、と男は言うと、走るそりから振り返り、いきなり女のフードを脱がせました。そりに吹きつける冷たい風が、女の髪をあおって吹き流します。銀の髪に銀の長い耳、小作りな顔は意外なほどかわいらしい表情をしています。
その顔を見つめながら、男が言いました。
「俺と一緒に北の峰へ行こう、レンラ。ここは一年中、白一色の冷たい冬だが、北の峰には四季がある。春の燃える若草色、初夏のけむる緑、真夏の暗い深い緑、秋の紅葉、冬の白と黒の木立……花が咲く、蝶も飛ぶ、鳥もさえずる……北の峰は美しいところだぞ」
その色とりどりの光景が見えているように、男は遠いまなざしになっていました。
「この北の大地で来る日も来る日も雪と氷だけを見ていて、はっきりわかった。俺は、やっぱり自分の山が好きなんだ。何もない、つまらない場所だと思ってきたが、寝ても覚めても、思い出すのはあの山なんだ。洞窟のドワーフどもも、了見の狭い下らない奴らだとばかり思ってきたが、こうしてみるとたまらなく懐かしくなる。俺はやっぱりドワーフだ。だから、北の峰に帰る。だが――おまえとは離れたくないんだ、レンラ」
レンラは灰色の瞳を見張りました。男の顔は真剣です。褐色の瞳が、じっと彼女を見つめています。
けれども、やがてレンラは目を細めて微笑すると、そのまま顔をそらしました。
「あんたが連れて行きたいと思っているのはあたし? それとも、あたしの透視力? あたしが一緒にいれば、絶対に食いっぱぐれることはないもんねぇ」
とたんに、男は顔を歪めて女の腕をつかみました。怪力にレンラが悲鳴を上げると、男はどなりました。
「見損なうな! 惚れた女を連れて帰りたいと思うのが、そんなにおかしいか!? 俺と一緒に来い、レンラ! おまえに世界を見せてやる!」
女は思わず泣き出しそうになりました。泣きそうな顔のまま、笑って見せます。
「嬉しいね、グランツ。あんたにそんなふうに言われるなんてさ。あんたはドワーフだし、あたしはトジー族。そんなこと、絶対に言ってもらえないだろうと思っていたのにね」
「それじゃ――」
男が顔を輝かせました。そりはいつの間にか雪原の真ん中で停まっていました。
すると、レンラは首を横に振りました。
「行けないよ、グランツ……。あんたには雪と氷しかないつまらない世界に見えるかもしれないけどね、ここはあたしにとっては世界中のどこより美しい故郷なんだよ。あんたが北の峰を愛してるように、あたしはこの北の大地を愛してる。そして、あたしはトジー族だ。この寒い場所こそ、あたしの生きていく場所なのさ」
男は思わず絶句しました。女はほほえみを浮かべたまま続けます。
「あたしは見てのとおり、ほんとに小さい。力もないし、働くことさえできないよ。でもね、あたしには透視力がある。占いならば誰にも負けない自信があるのさ。人々はあたしを占い姫と呼ぶ。でも、年を取って、姫と呼ばれる代わりにおばばと呼ばれる歳になっても、あたしはずっと北の大地の占い師として生きていきたいんだよ。――あんたが、死ぬまで猟師として生きていたいと思うようにね」
男は何も言えずに、ただただレンラを見つめました。ドワーフの彼よりも小柄な彼女が、何故だかとても大きく見えます。
レンラが手を差し伸べてきました。
「元気でお行きよ、グランツ。あんたの山を大切にね。あんたの上に、北の大地の女神の守りがありますように」
男は笑いました。胸の内の気持ちも言いたいことばもなにもかも、笑顔の奥に押し込めて、ただ女へこう言いました。
「俺の山には北の大地の女神の守りは届かないぜ。祈るなら、あの空にしてくれ。空ならどこまででも続いているから」
レンラはまたほほえみました。
「それじゃ、空の精霊があんたとあんたの山を祝福してくれるように……。ねぇ、グランツ、あたしは、さようならは言わないよ。いつかどこかで、思いがけない形でまた会えるかもしれないからね」
「それは予言か?」
と希望を持つように男が聞き返しました。レンラは笑い返しました。
「違うさ。でもね、人生なんて、いつだってそんなもんじゃないか。そうだろう?」
謎めいた女のことばに、男はあいまいな表情でほほえみ返しました。
雪原を風が吹き渡り、薄い地吹雪の中に彼らの姿を隠していきました――。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「あれから四十年かい」
氷の家の壁にかかった小さな肖像画を見ながら、占いおばばはつぶやきました。
丸い部屋の真ん中では火皿が燃え、天井からつり下げられたランプが部屋全体を照らしています。
おばばが見ているのは赤茶色の髪とひげの青年の絵でした。がっしりとしたドワーフの体型をしています――。
「ほんとにねぇ、まさかこんな形であんたと再会することになるとは思わなかったよ、グランツ。あんたの孫はあんたに瓜二つじゃないのさ」
金の石の勇者と一緒に北の大地に現れたゼンは、見た目は祖父にあまり似ていませんでした。けれども、おばばにはそれがあの男の孫なのだと一目でわかりました。少年の魂の形は、驚くほど祖父のグランツにそっくりだったのです。
おばばは肖像画の男に話しかけ続けます。
「あんたはあれから幸せだったんだね……あの子を見てわかったよ。良かったじゃないのさ」
遠いあの日の思い出と、もう手も届かない彼方の後悔が、今さらながら老いた胸を騒がせます。年甲斐もないこと――と、おばばは皮肉な笑いを浮かべました。
しわだらけになってしまった小さな手、しわが深く刻まれた顔。銀の髪と耳は雪よりも白くなりました。もう誰も彼女が「占い姫」などと呼ばれていたことを覚えてはいません。
すると、肖像画の男が尋ねかけてきたような気がしました。
「おまえはどうなんだ、レンラ? おまえは幸せだったのか?」
おばばは肖像画をまた見上げました。
「あたしかい? あたしは――」
その時、さっと入口のトンネルから冷たい風が吹き込んできて、部屋の仕切りのカーテンから大柄な男が顔をのぞかせました。ウー、と声をかけてきます。
「客? ああ、入っておもらい」
とおばばは答えました。著名な占い師のおばばを訪ねて、客が来たのです。大男のウィスルはうなずいて、カーテンから頭を引っ込めました。
おばばは肖像画の男をまた見上げると、大きくにっこりと笑いかけました。
「あたしも、もちろん幸せだったさ、グランツ。ずっと、ずうっと、幸せでいたよ」
ウィスルの案内で客が家に入ってきました。不安そうな様子のトジー族の若者です。悩んで思い詰めた顔をしています。
占いおばばは客の前に座ると、ほほほ、と声を上げて笑いました。
「なんて顔してるんだろうね。さあ、何を知りたいのかお話しよ。あたしはダイトの占いおばばだ。あたしの占いは、よく当たるんだからね――」
果てしなく白く広がる北の大地。
永遠に変わることのない景色の中に、今日もまた雪が降り続いていました。
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昨日のrakugaki~ジュリア&ゴーリスを、「ジュリア」というタイトルで、サイド・ストーリー集に収録しました。
で、それを読み返しながら、ふと思いついて、「フルート・0~始まりの物語~」と「1~黒い霧の沼の戦い~」の同時期の部分も読み合わせてしまいました。「ジュリア」の方はジュリアやゴーリスの視点からの物語。「フルート・0」や「1」はフルートの視点からの物語になるわけです。作者のくせに、なるほどなぁ~……という感じでした。ひとつの時間にさまざまな人たちがいて、それぞれの場所から同じ出来事をながめているんだなぁ、と改めて思ったりして。現実の社会もまさしくそうなんですよね。
しかし、元々ゴーリスは「フルート」のレギュラーキャラだったけれど、このサイド・ストーリーのおかげで、ジュリアも準レギュラー化しそうな気配。絶対にまたどこかで本編登場しそうです。ゴーリスはフルートの師匠で保護者役だけど、もしかしたら、ジュリアは女の子たちの保護者役になるのかも。(笑)
あ、ちなみにジュリアさんのイメージは、アルフォンス・ミュシャのリトグラフ「桜草」の女性です。ちょっと髪の色は違うんだけど(ジュリアさんは栗色、こっちのはトビ色……だよね)、な~んとなくね、この絵を思い浮かべながら書いていたのでした。
さてー。
今後の予定としては、いただいているイラストを明日か明後日にアップして(さゆたさん、お待たせ~!)、あとは私自身が「5」の読み返しと推敲の作業に入ります。これをしないと、次の「6」が書き出せませんのでね。
「6」も場面もどんどん頭の中にわいてきている。う~ん、また連載開始できる時が待ち遠しいぞ。
でも、その前にはやることをやらねば……。
ということで、がんばりまーす!\(^O^)
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「さあ、それじゃそこに粉をふるい入れて混ぜてね。こねてはだめよ。切るような感じで、さっくり混ぜるの――」
湖の畔に広がる保養地ハルマス。そこに建つゴーリスの別荘の台所で、奥方のジュリアが少女たちを相手に菓子作りの講習の真っ最中でした。
メールが混ぜる手を止めて尋ねます。
「このくらいでいいかな?」
いつもはおてんばで男顔負けの戦いぶりを見せる渦王の王女も、今は白いエプロンなどしめているので、けっこうかわいらしく見えています。ジュリアはほほえみ返しました。
「そうね、このあたりがまだ粉っぽいから、もう少し……はい、いいわ。ポポロ、スグリの実を入れてちょうだい」
「はい」
小柄な少女がすぐに近寄ってきました。黒衣の上にやはり白いエプロンをしめて、手には小さな器を抱えています。器の中では、たくさんの小さな赤い実が宝石のような輝きを放っています。
「そのまま混ぜちゃっていいの?」
とメールが尋ねると、ジュリアがまたゆったりとほほえみました。
「ええ、やっぱり切るような感じで全体に混ぜてね。これは種なしスグリだから、口当たりが良くておいしいのよ」
豊かな栗色の髪が、ほほえみに合わせて優しく揺れます。美人ですが、それ以上に暖かく落ちついた雰囲気が伝わってくる女性です。そばにいるだけで安心できる気がして、メールもポポロも、知らないうちに一緒にほほえんでいました。まだ子どもはいないのに、何故かとても母性を感じさせる人でした。
台所の窓の外には白い雲を浮かべた青空が広がっていました。生きるか死ぬかの闇の声の戦いは終結し、平和な時間が戻ってきています。少女たちは、激戦を切り抜けてきた少年たちに、ねぎらいの気持ちを込めてご馳走しようと、ゴーリスの奥方のジュリアに習ってケーキを作っていたのでした。混ぜ合わせたタネを型に流し込み、燃えているかまどの中に入れます。
「さあ、これで後は一時間くらいかしらね? 焼き上がるまで、私たちもちょっとお茶にしましょうか」
とジュリアが言って、少女たちに黒茶を淹れてくれます。その間に、少女たちが使った道具を洗って片付けます。
すると、ふふふ、とジュリアが笑いました。
「本当は呼び鈴を鳴らして小間使いに片付けさせるほうがいいのだけれど、なんだか面倒くさくてね。こうやって自分たちでやってしまったほうが気楽なのよ。ごめんなさいね」
メールとポポロは目を丸くしました。自分たちが使ったものを自分たちで片付けるのは、少女たちにとっては当たり前のことです。
けれども、実を言えば、ジュリアほどの身分の貴婦人が自らお茶をいれたり、台所に立って料理を作ったりすること自体、本当はとても珍しいことなのでした。ゴーリスも相当気さくな人物ですが、実際には国王に直接仕えていて、城にも居室を準備されているほどの大貴族です。その奥方となれば、生活の一切のことは召使いや女中たちに任せっきりにして、ただ城の一室に座って、彼らに命令を下しているのが本来あるべき姿なのでした。
「でも、そういうのは、とてもつまらないでしょう? ただ座っているだけだなんて、退屈でしかたないもの」
とジュリアが笑って話します。落ちついた物腰とは裏腹に、案外はっきりした物言いをします。そんな彼女がたまらなく素敵に見えて、少女たちはまた一緒になって笑いました。本当に、貴族の生まれとは思えない、親しみやすい人物です。
そんな雰囲気は、お茶を飲む間も続きました。他愛もない話をするうちに、メールがふと、尋ねます。
「ねえ、ジュリアさん。フルートから聞いたんだけどさ、ジュリアさんとゴーリスって、婚約してから結婚するまで十年以上待たされたんだって? ゴーリスが金の石の勇者をシルの町でずっと待ってたから。それってさ、ジュリアさんはつらくなかったの?」
待たされる、ということばに、メールは敏感です。職務や戦闘に出かけていく渦王を、城で待ち続けていた亡き母を思い出すからです。フルートからジュリアとゴーリスの話を聞かされてから、いつか、その時のことを詳しく聞いてみようと考え続けていたのでした。
あらあら、とジュリアが首をかしげました。とても不躾で失礼なメールの質問にも、怒った様子は見せません。ちょっと考えてから答えます。
「そうね……つらくなかったと言えば、嘘になるわね。なにしろ、あの人はシルの町に行って間もなく、私との婚約を破棄してきたから。その状態で待ち続けるのはね、たしかに、ちょっとつらかったわね」
「婚約を破棄してきた!?」
メールとポポロは同時に驚きました。いつもはおとなしくて引っ込み思案なポポロですが、さすがにこういう話には夢中になってしまっています。
「ど、どうして? 嫌いになったとか、そういうことじゃ……ないですよね?」
と自分から尋ねていきます。そう、今、二人はこうして結婚しているのですから、そんなことが理由のはずはありませんでした。
ジュリアはまた静かにほほえみました。遠い昔を眺める目です。
「違うと思うわ。自分にはシルの町での任務があるから、あなたと結婚している暇はない。この婚約はなかったことにして別の男性のところへ嫁ぐように、と一方的に手紙を書いてよこされてね、後は、こちらからいくら使いをやっても、けんもほろろの扱いだったの。あの人は、ああ見えてとても真面目だから――私を待たせ続けることに我慢できなかったのでしょうね」
わぁお、とメールが声を上げました。あまり女の子らしくない調子です。ポポロがまた尋ねました。
「でも、それでもジュリアさんは待ってたんですよね。どうして……? 小さい頃から家同士で決められてた許嫁かなんかだったの……?」
「いいえ、私は地方の小貴族の娘ですからね。家柄も資産も、あの人とは比べものにもならないわ。そんな家同士で婚約なんてするはずなくてよ」
「だけどさ、その資産目当てで待ってたわけでもないよね? そんなの、想像がつかないもん!」
とメールが言います。悪気は全くないのですが、本当に、この海の王女は歯に衣着せない言い方をします。ジュリアはそれでも怒ることなく、静かにうなずきました。
「そうね、そんなことで待ち続けたわけじゃないわ……」
ほほえむ瞳を窓の外に向けます。中庭のどこかでは、夫のゴーリスがフルートや占い師のユギルたちと話をしているはずです。
「じゃ、どうして!?」
少女たちはいっせいに身を乗り出して尋ねました。メールもポポロも、納得のいく話を聞かせてもらうまでは、とても退けない気持ちでいます。その真剣な表情に、ジュリアはまた、あらあら、と声を出しました。
「とんでもない話を始めてしまったかしらね? ……そんなに聞きたくて?」
メールとポポロが大きくうなずきます。
「それじゃあ――ケーキが焼き上がるまでの間、少しだけね。でも、この話は他の人たちには言ってはだめよ。特に、主人には内緒。人に話したとわかったら、後で怒られてしまうから」
そう言って、ふふふっと笑うジュリアは、まるでメールたちと同じ年頃の少女のようでした。
メールとポポロは大きくうなずき、そして、三人の女性たちは、台所の片隅で、内緒の思い出話を始めたのでした――。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「私はさっきも言ったとおり、地方の小貴族の娘だったの。それでも、女性は十八の年になると社交界にデビューするのがしきたりだから、故郷から馬車で王都ディーラまで出ていったわ。実際にはもう十九になっていたのだけれどね……」
デビューにかかるお金を準備するのに時間がかかったのよ、と言って、ジュリアが笑います。貴族と言っても、地方に住む身分の低い小貴族たちは領地も狭く、そこから上がってくる税金も少ないので、下手をすれば、都市部の庶民よりつましい生活をしなければならないのでした。
「古い馬車に御者と乳母の二人だけをお伴に、ディーラを目ざしたわ。ディーラには親戚に当たる人がいたから、そこにしばらく身を寄せることになっていたの。私も年頃の娘でしたからね、華やかな社交界を想像して、それは胸躍らせていたものよ」
メールは海の王の娘ですが、貴族や社交界と言ったものは、海の民には存在しません。ポポロは天空の国の貴族ですが、こちらもまた、人間で言うところの貴族とはまるで違った存在なので、やっぱり、社交界などというものはまったく知りません。珍しい話を聞く気持ちで、二人の少女は一生懸命、ジュリアの話に耳を傾けていました。
「でもね、慣れない道だったものだから、馬車が街道脇の崖から転落してしまったのよ。小さな崖で、それも今はもう、陛下が直々に補修をお命じになって、何の危険もない場所になっているけれど。でも、運悪く、私たちはそこから落ちて、馬車は壊れてしまうし、御者も乳母も怪我をして動けなくなってしまったのよ。馬も負傷して、奇跡的に怪我をしなかったのは私だけ。夜の闇が迫ってくる時間帯だったわ。だから、私たちの馬車も先を急ぎすぎて、曲がり角の崖に気がつかなかったのだけれどね。なんとか私は崖の上まで上がったけれど、街道を通りかかる人もなかったものだから、とにかく、助けを求めて走ったわ。ディーラにはだいぶ近い場所で、灯りが見えていたから、町の方向はわかったの。走って走って……どのくらい走ったかしら? よく覚えてもいないのだけれど、とにかく走って、町の入口まで来たところで、真っ先に出会った人に飛びついて助けを求めたの。『お願いです、馬車が壊れて供のものが怪我をしています。助けてください!』って……。夢中だったから、それがどんな人かも確かめる余裕はなかったんだけれど、それがね、あの人――アルバート・ゴーラントスだったのよ」
少女たちはまた、きゃあ、とも、ひゃあ、ともつかない声を上げました。
「で、そこでゴーリスがかっこよく助けてくれて、それで二人は知り合ったわけ? うっわぁ! 物語みたい!」
メールが歓声を上げます。けれども、ジュリアは笑いました。
「いいえ、かっこよく助けてなんてくれなかったわ。あの人はね、私をちらりと見ただけで、町の方を顎で示して言ったのよ。『向こうに衛兵の屯所がある。用事があるなら、そっちへ行け』ってね。よく見たら、黒ずくめの服にひげ面の怖そうな人で、腰には大きな剣を下げていたし。これはてっきり強盗の親分にでも声をかけてしまったに違いないと思ったわ」
あれまぁ、と少女たちがあきれます。が、今でもゴーリスは決して愛想の良い人物ではありません。余計な物言いはしませんし、目つきにも態度にも厳しいところがあります。若い頃のゴーリスの姿もなんとなく想像がつくような気がしました。
ジュリアが話し続けます。
「もう、私はドキドキよ。強盗の親分につかまってしまわないように、後ずさりながら、お礼を言いながら、町の屯所まで走っていこうとして――でも、私、その時裸足になっていたのね。高いかかとのある靴ではとても走れなくて、途中で脱ぎ捨ててきちゃったから。それにあの人が気がついて、『靴はどうした』って聞いてきたの。聞かれたら、答えるしかないわ。『走るのに邪魔だから脱ぎ捨てました』って正直に答えたら、今度は『走ってきた?』って。それから、『どこから?』と聞かれたから、崖の場所を教えたら、あの人はとても驚いてね……後でわかったのだけれど、私、夜道を裸足で六キロ以上も走っていたらしいのね。本当に夢中で、そんなに走ったなんて思ってもいなかったのだけれど。あの人が私に関わろうとしなかったのも当然。走っているうちに、私は髪の毛はざんばら、何度も踏んづけてしまったから、ドレスの裾もぼろぼろ。汗で化粧も落ちているし、とんでもない格好になっていたのね。あの人はあの人で、私を、頭が変になって家から抜け出してきた、かわいそうな娘だと思っていたらしいのよ」
お互いさまよね、と言って、くすくすとジュリアが笑いました。少女たちは何も言えません。ただただ呆気にとられて、話を聞き続けます。
「その後は、あの人もすぐに助けてくれたわ。屯所に連れて行ってくれて、衛兵と一緒に馬車が落ちた場所まで駆けつけてくれて、乳母や御者を助けてくれて……。やっと、ディーラの親戚とも連絡がついて、迎えに来てもらえる段取りになって、やれやれ、とあの人に御礼を言おうとしたら――いないのよ。もう、どこにもいないの。名前も名乗っていかなかったわ。衛兵たちに聞いても、どこの誰とも全然わからなかったし……。これも、後でわかった話なのだけれど、あの人は時々自分の屋敷を抜け出して、ディーラの下町まで剣の稽古に出かけていたらしいのね。お忍びだったから、自分の身分や名前を明かすわけにはいかなくて、いつの間にか姿を消していたの。もっとも、あの人自身、そういう場面で大げさにお礼を言われたりするのは好きじゃないから、逃げてしまったのだけれど、ね」
そう言ってほほえむジュリアの顔には、慈しむような表情がありました。偏屈で無愛想な自分の夫を、心から理解して受け入れているように、少女たちには見えました。
「でもさ、それじゃどうやって二人は知り合ったわけ? どっかで再会したんだろ?」
とメールが尋ねました。
ジュリアは、また、あら、と言って頬に手を当てました。
「困ったわね。このくらいでいいことにしない? これ以上話したら、本当に、私はあの人に叱られてしまうのだけれど」
「そんなぁ! ダメだよ!」
「あたしたち、絶対に誰にもしゃべらないから!」
少女たちがあまり熱心に頼むので、とうとうジュリアも根負けしました。絶対に、絶対に内緒よ、と言って、さらに思い出話を続けました――。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
その日、ジュリアは生まれて初めて出席した舞踏会で、ただただ圧倒されてしまっていました。とある老貴族の誕生祝いのパーティで、規模も内容もディーラの貴族たちからすれば、ごく普通のものでしたが、地方から出てきた小貴族の娘の目には、信じられないほど豪華な集まりに映りました。この世のものとも思えないほど美しく着飾った男女が、目の前で演奏する楽団の曲に合わせて、軽やかにステップを踏みます。それはまるで、おとぎ話に出てくるエルフたちの舞いのようです。
ジュリアを連れてきた親戚は、パーティの主役や主だった人たちに、彼女を紹介してくれました。けれども、同じように社交界デビューする娘や息子を紹介しようとする貴族たちは数え切れないほどいて、身分も資産もない地方の小貴族の娘と挨拶以上の話をしようとする者など誰もいませんでした。
それでも、ジュリアは目の前のきらびやかな集まりを、飽きることなく眺めていました。これが社交界というものなんだわ、とただただ感心してしまいます。誰も自分を相手にしてくれないことなど、これっぽっちも気になりませんでした。むしろ、ゆっくりとパーティや人々の観察ができるので、放っておかれて好都合なほどでした。
すると、目の前を通り過ぎていく年配の婦人たちの話し声が聞こえてきました。
「まあ、なんであんな方がおいでになったんでしょう。場をわきまえてらっしゃらないこと」
「珍しいですわね。あの方がこんな集まりに出てらっしゃるなんて」
「いやですわ。せっかくのお祝い事が台無しになるじゃありませんの」
口調こそ丁寧ですが、とんでもなく鋭い揶揄と非難の響きが込められています。それが、本当に美しく着飾った上品な婦人たちの口から出てきたので、ジュリアはびっくりしてしまいました。中央の貴族たちの陰険さを、この時、彼女は初めて目の当たりにしたのです。
この人たちにこんな悪口を言われているのは誰かしら、と思わず会場を見回して、ジュリアはまたびっくりしました。パーティの主役の老貴族に挨拶を終えたひとりの貴族が、こちらへ向かって歩いてくるのに気がついたからです。周り中の人々が、先の貴婦人たちと同じ揶揄と非難のまなざしを向けています。好奇心に満ちた目で眺めている人々もいます。普段、パーティに滅多に顔を出さないその人物が、何故ここに現れたのだろう、と動向を見守っているのです。
その人は、たくましい体を仕立ての良い黒ずくめの服で包んでいました。大股に、まっすぐ壁際のジュリアへ歩み寄ってきます。ジュリアは驚きのあまり声が出ませんでした。間違いありません。腰に剣はないし、身なりも、あの時よりずっと上等になっていますが、それは夜道でジュリアと供のものを助けてくれた無愛想な青年だったのです。
青年はジュリアに無骨な手を差し出しました。
「俺と一曲踊ってもらえるだろうか――?」
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「ホントにホントっ!? あのゴーリスがホントにそんなこと言ったのっ!?」
「ジュリアさんのことが忘れられなくて、わざわざ会いに来たのね。うわぁ……なんだか、すごい!」
メールとポポロは、ジュリアの思い出話に大騒ぎです。すると、ジュリアがちょっと恥ずかしそうに笑いました。
「そんなにロマンチックな話でもなかったのよ、その時は。私は、あの人が貴族だったってことにびっくり仰天してしまっていて――絶対に、町の剣士かなにかだとばかり思っていたから――言われて一緒に踊ったけれど、ろくに話もできなかったの。助けてもらったお礼を言うのがやっと。そしたら、あの人はなんて言ったと思う?」
少女たちは目を丸くしました。
「……どういたしまして、とか、大したことではない、とか?」
「いいえ。『あなたは走るのが得意なのか?』と聞いてきたのよ。大真面目な顔で」
少女たちは大爆笑です。今はいぶし銀のようなゴーリスが、女性への話しかけ方ひとつ知らない無骨な青年になって、目の前に現れてきたような気がします。
「それで? それで? ジュリアさんはなんて答えたのさ?」
メールが腹を抱えて笑い転げながら尋ねます。
「なんて答えていいのかわからなかったから、とにかく正直に答えたわ。『私の故郷は山の多い場所だから、小さい頃から歩いたり走ったりするのには慣れています』ってね。そうしたら、『そうか』と納得して、後はそれっきり、なにもおっしゃらなかったの――」
少女たちはまた大爆笑です。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
けれども、そんなジュリアをどうやらゴーリスは気に入ったようで、その後、ことあるごとにジュリアの元に花や贈り物が届くようになりました。
変人で偏屈でも、ゴーリスは古くからロムド国王に仕える名門貴族のひとりです。父親は三年前にこの世を去っていて、ゴーラントス家の跡継ぎが誰をめとるのかと注目されていました。本当ならば、噂も華やかなはずの立場の人物です。ところが、当人は必要最低限の集まりにしか顔を出さず、女性どころか人とも滅多に顔を合わせず、噂によれば、しょっちゅう屋敷を抜け出しては都の下町に出入りしている――それも、ろくでもない場所に入り浸っているということで、都の貴族たちは、ゴーラントスという名前を聞いただけで、顔をしかめて鼻の頭にしわを寄せるようになっていました。本来なら山のように押し寄せてくるはずの縁談も、ゴーラントス家の跡継ぎには、数えるほどしか舞い込んできませんでしたし、それも、片っ端から当人が断ってしまっていました。
そんなゴーラントス卿に、ついに意中の女性が現れた。それも、都の貴族たちが誰も名前も聞いたことがなかったような、地方の小貴族の娘だという。ディーラの社交界はその話題で持ちきりになり、物見高い貴族たちが、毎日のようにジュリアを「見物に」やってきました。まったく、都の貴族たちのいい暇つぶしの種にされたのです。
さすがのジュリアもこれには閉口しました。連日、貴族たちがとっかえひっかえ訪ねて来るので、身を寄せさせてもらっている親戚にも多大な迷惑がかかります。ジュリアとしては、ゴーリスを嫌いというわけでもなかったのですが、どのみち都の大貴族と地方の小貴族とでは身分が違いすぎます。ジュリアがゴーリスを色仕掛けで落として玉の輿を狙っているのだという、とんでもない噂も耳に入ってきてしまいます。とうとうジュリアはゴーリスには何も言わずに、ロムドのはずれにある故郷へと戻っていきました。王都ディーラから北東へ、馬でも十日以上かかる辺境です。山間にひっそりと横たわる小さな領地で、ジュリアはまた元の静かで平凡な生活に戻れるはずでした。
ところが、そこにもやがて都からゴーリスの贈り物が届くようになったのです。まれに手紙が添えられてくることもありました。たいていは短い時候の挨拶でしたが、ジュリアは丁寧に返事を書き続けました。贈り物などいただくいわれはないと思っていましたが、それでも感謝の気持ちは示さなければならないと思ったのです。
すると、ある時、近いうちにあなたの故郷を訪ねたい、と書かれた手紙が届きました。まさか大貴族のゴーラントス卿がこんな田舎に来るはずはない、ただの社交辞令に決まっている、と思いながらも、なんとなくジュリアの胸がときめいたのは事実でした。
本当にゴーリスがジュリアの屋敷を訪ねてきたのは、それから半年後、二人が初めて出会ってから一年あまり後のことでした。
久しぶりに再会したゴーリスは、相変わらず黒ずくめで厳しい目をしていて、大貴族というより剣士と呼ぶ方が断然ふさわしいように見えました。やっぱり口数少なくて、ジュリアに会っても、喜んで何かを話すというわけでもありません。ただ、山のような贈り物を一緒に運んできて、それをジュリアの屋敷の居間に積み上げて、ジュリアの父親に向かって短く言ったのです。
「あなたの令嬢のジュリア殿を私の妻にいただきたいのだ」
仰天したのはジュリアの両親とジュリアでした。とても身分がつり合わない、持参金も準備できないから、お断りさせてほしい、とゴーリスに懇願しました。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「持参金? なにそれ?」
とメールが不思議そうに尋ねました。ポポロにも意味のわからないことばです。
ジュリアが穏やかに笑って答えました。
「人間が結婚するときのしきたりよ。奥さんの実家で、結婚していく娘にたくさんのお金や品物を準備してやらないといけないの。フルートのような庶民なら持参金も形ばかりだけれど、貴族はね、そういうわけにはいかないのよ。しかも、ゴーラントス家は大貴族。そこに嫁にやるとなったら、屋敷や領地全部を売り払ったって、とても持参金なんて準備できなかったのよ」
それを聞くと、ふうっとメールは溜息をつきました。さっきから、彼女は貴族同士の結婚の話に溜息をつき通しです。
「人間ってホントめんどくさいよねぇ」
と海の王女はひとりごとのようにつぶやきました――。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
それでも、ゴーリスはあきらめませんでした。ジュリアの両親やジュリアが何度断っても、それでも手紙を送り、金品を送り、自分自身で訪ねていきます。そんなことが一年以上も続いたある日、屋敷を訪れたゴーリスに、とうとうジュリアは自分自身で尋ねました。
「何故そんなに私に固執なさいますの、ゴーラントス様? 私はしがない小貴族の娘です。私よりもっと身分も資産も教養もある、あなた様につり合う方は、世間に大勢いらっしゃいますわ。それなのに、何故こんなにも私にばかり? 私のどこが、そんなによろしいとおっしゃるのですか?」
穏やかで物静かに見えても、芯には強いものを持つジュリアです。その物言いも、遠慮している口調ではなく、本当に不思議に思って真相を確かめようとしている人のものでした。
すると、ゴーリスが微笑しました。めったに表情を変えない黒衣の剣士ですが、ジュリアと二人だけでいるときには、ふっとその表情がなごむ瞬間があります。
「本当ならば、あなたはこの世で一番素晴らしい女性で、あなた以外の女性などとても考えられないからだ、とでも言わなくてはならないんだろうが――」
とゴーリスが答えました。相変わらず、口調はぶっきらぼうです。
「あいにくと、俺はそんな歯が浮くようなセリフはとても言える人間じゃない。お世辞も社交辞令も、死ぬほど苦手だ。いつだって、俺に語れるのは、俺にとっての真実だけだ。一度だけしか言わん。聞きたければ聞くがいい」
ジュリアはうなずきました。
ゴーリスは語り始めました。
「俺は今はこうしてゴーラントス家の家長を務めているが、もともとは、先代のゴーラントス卿だった父の、妾(めかけ)の子だ。俺の母親は俺が四つの年に死んだが、俺が覚えているのは、いつも父の気を惹こうと美しく着飾って、父の正妻と張り合っていた姿だけだ。まるで飾り羽根を広げて威嚇し合うクジャクのようだと思ったもんだ。母親らしいことをしてもらった覚えもない。母が病気で死んだときに自分が泣いたかどうかも覚えていない。泣かなかったのかもしれないな……。母が死んだとき、俺の父にはすでに正妻が産んだ三人の息子がいて、跡継ぎは充分間に合っていたから、俺はすぐに養子に出された。あなたのような地方の小貴族だったが、彼の目的は俺ではなく、俺を養子にして大貴族のゴーラントス家とつながりを深めて、その恩恵に預かることだった。おかげで、俺は四六時中ほったらかしにされていた。好都合だったがな。何をしてもとがめられることがなかったし、好きな剣術にも思う存分没頭することができたから。今でも俺は、着飾ったヤツらが嘘ばかり並べ立てる貴族の世界より、下町の庶民の生活の方が好きだ。子どもの頃からずいぶん遊び回って、なじみのある世界だからな」
ジュリアの屋敷の小さな中庭の、東屋のように枝を広げる木の下で、ゴーリスとジュリアは並んで立っていました。ゴーリスの目はジュリアを見てはいません。ここにはない、遠い昔の景色を眺めています。
「ところが、俺が二十二の年に、ゴーラントス家の跡継ぎが次々に流行病(はやりやまい)で死んでしまった。三人が三人ともだ。正妻も同じ病気で死んだ。娘が他に二人いたが、これはすでに嫁に行っていて、家には子どもがひとりも残っていなかった。俺の父親はすでに七十に近い老齢になっていた。そこで、思い出したように呼び戻されたのが俺だ。その時から、いきなり、おまえはゴーラントス家の跡継ぎだ、次の家長だ、と言われて、徹底的に大貴族の勉強をさせられたが、なに、そんなもの。しょせん付け焼き刃だ、身につくものか。剣に自信はあったから、それで陛下のお役に立ちたいとは思っていたが、別に出世したいとも思わなかった。父は俺に陛下の親衛隊長か近衛隊長でも狙わせたかったようだが、まっぴらごめんだと思っていた。宮廷は嘘と虚構の世界だ。陛下は立派な方だが、それに付属する貴族どもには、ろくでもないヤツらが掃いて捨てるほどいる。そんなヤツらの中になど入るものか、そんな世界で育った女などめとるものかと、ずっと思ってきた。そのうちに父が死んで、本当に俺はゴーラントス家を継いだが、家を盛り立てるとか、存続させるとか、そんなことはこれっぽっちも考えてはいなかった。今でも全然考えていない」
ゴーリスは、普段からは想像もつかないほど饒舌になっていました。吐き出すように話す口調が、感情の強さを伝えます。この大貴族の青年は、貴族でありながら、自分の地位や身分を深く憎んでいるようでした。
けれども、ゴーリスがジュリアに目を向けたとたん、その強く険しい調子が、ふっとなごみました。おびえたように目を見張る彼女に向かって、静かにほほえんで見せます。
「あなたは違うな。そういう貴族どもとは違う人種だ……。あなたがそうだと言えば、それはまさしくその通りだし、あなたが違うと言うことは、確かに違うのだ。出会ってから、どのくらいたった? 二年は過ぎたか? その間、あなたが俺に嘘をついたことは、一度だってなかった。都の貴族たちの中では考えられないことだ。だが、あなたはいつだって、飾ることも偽ることもせずに、ただ本当のことだけを言う。――あなたは俺に何度も、結婚することはできない、と言った。だが、俺を嫌いだ、とは一度だって言ったことがないんだ」
ジュリアは思わず真っ赤になりました。思いがけず、隠していた心の中をあらわにされてしまったような気がしました。裸でゴーリスの前に立っているような、どうしようもなく恥ずかしい想いでいっぱいになります。
そんなジュリアを黒衣の戦士は引き寄せ、その白く細い手を、自分の無骨な両手で包みました。
「あなただから、結婚したいのだ。身分や家柄のある女など俺には必要はない。むろん、持参金などもいらん。ただ、あなたにそばにいてもらいたい。嘘を言わずに――ただ、俺のそばにいてほしいのだ」
ジュリアはゴーリスを見上げました。せつないくらいに真剣な色がそこにあります。嘘をつけないのは、この人物も同じなのです。嘘がつけないからこそ、真実を求め続けるのです。
ジュリアは、栗色の髪の頭をかしげて、やさしく相手を見つめました。
「それならば――そのくらいのことならば、私でもきっとできますわね、ゴーラントス様」
そう答えてほほえんだとたん、大粒の涙がジュリアの目からこぼれ落ちました。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「けれども、それから間もなく、あの人に陛下からの勅令が下ったの」
とジュリアは話し続けていました。メールとポポロは、もう茶々を入れたり、はやし立てたりすることもできなくて、ただただ彼女の話を聞いています。ジュリアの口調は淡々としていました。
「新しくお城に来た若い占い師が陛下に進言したのだと聞かされたわ。今でこそユギル様は押しも押されもしない城一番の占者だけれど、あの当時は、年も若かったし、誰もその占いを信じようとはしなかったわ。ただ、国王陛下だけが信じて、あの人に、シルの町まで出向いて、魔の森から現れるという金の石の勇者を迎えるように、とご命令になったの。私たちは、結婚式を二ヶ月後に控えていたのだけれど、勅令ではどうしようもなかったわ。あの人は単身でシルの町へ向かって、私は自分の屋敷であの人を待つことになったの……。でも、三ヶ月たっても、半年たっても、金の石の勇者はいっこうに現れない。それならばいっそ私の方からシルの町のあのひとのところへ押しかけようかとさえ考えたけれど、小さい頃から庶民の中に出入りしていたあの人と違って、私はどうしても貴族のふるまいが抜けないわ。シルの町に潜入しているあの人の正体を明らかにするようなことはできなくて、ただ、便りを交わし合うことしかできなかったの。でも、それも、一年を過ぎる頃に、突然向こうから婚約破棄を言い渡してきてね――最初に話した通りよ。自分にはシルの町で待つ任務があって、結婚している暇がないから、この婚約はなかったことにして、別の男性の元へ嫁ぐように、って。――ねえ、冗談じゃないことよねぇ」
そう言って、ジュリアは少女たちに笑って見せました。何故だか見ている方が胸が痛くなってくるような笑顔でした。
「あの人は、本当に嘘をつくのが下手なの。こちらからいくら手紙を送っても、話をしたいと言っても、使いの者を追い返してしまうばかり。でも、その使いの者が、どんどん荒れていくあの人の様子を伝えてくれたわ。酒に溺れて、見る影もなくなったような、あの人の姿をね……。シルの町では、いつの間にか『酔いどれゴーリス』と呼ばれるようになっていたらしいわね。それでも、あの人は待ち続けたの。いつ現れるかわからない、金の石の勇者をずっと――」
そして、実に十年の後、ついに現れたのがフルートです。それまで、ただのシルの町の子どもだとばかり思っていたフルートが、待ち続けていた金の石の勇者だとわかったときの、ゴーリスの驚きがどれほどのものだったか、ジュリアにはわかるような気がしました。そして、過ぎてしまった十年という歳月の長さと重みを、改めてかみしめてしまったのに違いない、ということも……。
「金の石の勇者が見つかっても、あの人はすぐには都に戻ってこなかったわ。フルートを勇者として鍛える役目があったから。その後、ロムドの国は闇の黒い霧におおわれてしまったの。フルートが金の石の勇者として旅立って、ゼンやポチと活躍した話は知っているわよね? あの人は、ロムド城でそれをずっと見守っていたわ。その後は、今度は陛下の側近とも言えるような地位に抜擢されて……十年間、陛下の命令に従って待ち続けたことと、金の石の勇者を育てた功労を認められたのね。あの人はとても忙しくなって……そして、とうとう、一度も私を訪ねてくださらなかったの」
メールとポポロは目を見張りました。十年間、待ちに待ったのはジュリアも同じです。その彼女をゴーリスが訪ねようとしなかった、というのは、少女たちには理解できないことだったのです。どうして? と尋ねると、ジュリアはほほえみました。過ぎた思い出にも、淋しそうな表情をしています。
「責任を、感じていたのでしょうね。王都ディーラに戻って、私がまだ結婚もしないであの人を待ち続けていたと知った時、あの人はとても驚いたのだと人から伝え聞いたわ。でも、あの人から来たのはお手紙だけ。それも、今すぐ誰かと結婚するように。今まで正式に婚約を解消しなかったのは自分の不手際だったから、慰謝料として私の望むだけのものを支払う、ってね。……それだけの内容よ」
少女たちはまた、何も言えなくなってしまいました。大人の世界のやりとりというのでしょうか。本当は好き合っているはずの二人が、やっとまた一緒に暮らせる場所に戻ってきたというのに、それでも相手を拒否しようとする心理が、彼女たちにはまだよくわかりませんでした。ただ、ことばにならない怒りと悲しみがこみ上げてきてしまいます。
やっとのことで、メールが言いました。
「そんな――そんな馬鹿な話って、ないじゃないか!」
ポポロも必死で言いました。
「でも、それでも、ジュリアさんはあきらめなかったのでしょう!? だって……だって……!」
ジュリアは、本気で怒り悲しんでくれる少女たちを優しい目で見つめました。いい子たちね、と心の中でつぶやくと、笑顔になって答えました。
「もちろんよ。だって、私たちは現に、こうして結婚しているんですからね――」
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
手紙を受け取ってすぐ、ジュリアは馬車でディーラのゴーリスの屋敷へ向かいました。屋敷の門や入口に立つ門番や取り次ぎをすべて押し切り、制止しようとする人々の間をすり抜けて、奥の書斎まで駆け込みます。
十年あまり待ち続けたその人が、書斎の真ん中に立っていました。たくましい体つきは相変わらずですが、黒かった髪にはめっきり白いものが混じり、顔は頬がこけて、いっそう厳しい顔つきになっています。ジュリアは思わず泣き出しそうになりました。十年分、年をとったのは自分も同じです。けれども、目の前にいたゴーリスは、十年のその倍近くも年をとってしまったように見えたのです。長い間の苦労が、そのまましわに変わって顔に刻まれたようです。
すると、ゴーリスが少しだけ笑いました。黒い瞳が淋しげなほほえみを浮かべます。
「あなたは、相変わらず走るのがお得意のようだ」
近くにいるのに遠く離れた場所にいるような、目には見えない壁があるような、越えることのできない距離感がふたりの間に横たわっていました――。
「慰謝料で解決なさるとおっしゃるのですか?」
とジュリアはゴーリスに尋ねました。考えを変えさせるためにも相手を責める口調にしたいのに、どうしても、哀願するような声になってしまいます。ゴーリスは表情も返事も冷静でした。
「俺にはこれしかできることがない。あなたに十年も無駄な時間を過ごさせてしまったことは、本当に申し訳なく思っている。金や物で償えるものではないことはわかっているが、他に方法がないのだ」
「なんでも、私の望むだけのものを支払うと?」
ジュリアはすでに泣き声になっていました。泣くまいと、冷静に話し合おうと、道々心に誓ってきたのに、やはり耐えることができませんでした。すぐ目の前に立つ愛しい人に、どうしても手が届かないのです。
「俺は嘘は言わない。さすがに、この命だけは差し出せないが、それ以外のもので俺に支払えるものであれば、なんでもあなたに差し上げよう」
ジュリアは笑いました。笑いながら涙がこぼれてきます。
「もしも、私があなたにゴーラントス家の地位と財産をすべてよこせと申し上げたら、それでもかまわないとおっしゃるの?」
ゴーリスの顔に薄い笑みが浮かびました。先のほほえみとは違った、冷ややかな笑顔でした。
「それであなたの気がすむのならば。もとより、俺はゴーラントス家など望んではこなかった。それがほしいと言うのならば、すべてをあなたに譲り渡そう。陛下は家臣の身分を気にされない方だ。俺は一介の剣士として陛下にお仕えする。俺はそれで充分なのだ」
ジュリアの目から涙がこぼれ続けました。そこにいるのは決して嘘を言わない人物です。そのことばは紛れもない本心で、本当に、どこにもとりつく島がありません。
ジュリアは泣きました。泣きながら、懸命に言い続けます。
「では、金の石の勇者は? あなたは金の石の勇者の後見人でいらっしゃる。その権利をお譲りください、と申し上げたらば?」
とたんに、ゴーリスの表情が変わりました。ジュリアを哀れむような表情が、一転して、信じられないほど険しくなります。目を白く光らせながら、ゴーリスは答えました。
「それはできない。あいつは俺の所有物ではないし、俺はあいつの後見人というわけでもない。あいつは金の石に選ばれた勇者だ。誰の命令も受けずに、ただ石と自分の意志に従って世界のために戦うのが役目だ。そもそも俺のものではないものを、あなたに渡せるはずはない」
声も態度も、はっきりとジュリアを非難しています。ジュリアは恐ろしくなって、思わず後ずさりました。ただ言ってみただけです、と言おうとするのに、怖くてその声さえ出せませんでした。
そんな彼女に、ゴーリスは宣言するように言いました。
「俺に支払えるものであるなら、俺はいつでもなんでもあなたにそれを支払う。それが俺の償いだ。だが、今日は帰るがいい。もう日が暮れる。暗くなってからの道は物騒だ。また出直してこられよ」
冷たく固い拒絶でした。どんなに追いすがって引き止めようとしても、この人は絶対に自分の元へは戻ってこないのだと思い知らされてしまいます。
はらはらと涙を流しながら、ジュリアは尋ねました。それこそが、一番最初に、当たり前に出てきそうな質問でした。
「ゴーラントス様……他に好きな方がおできになったのですか?」
すると、たちまちゴーリスの態度が和らぎました。同情するような、優しい距離感を漂わせて答えます。
「俺は生涯、結婚はしない。あなたとも、あなた以外の女性とも、誰ともだ」
もう帰られよ、とゴーリスがまた言いました。
ジュリアは泣きながら、ゴーリスの屋敷を後にしました。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
それから半年ほどの間、ジュリアはゴーリスの元を訪ねませんでした。
慰謝料の件を巡って喧嘩別れのようになったので、ゴーリスとしても気がかりではあったのですが、それ以上に、国政に絡む業務が忙しくなっていました。
今やゴーリスは周囲の誰もが認める、国王の重臣のひとりです。彼が見つけ出してきた金の石の勇者は、今度は隣国エスタを風の犬の危機から救い、エスタ国王はそれに感謝して、ロムドと永久に同盟を結ぶと言ってきました。それがことばだけではない本物の和平条約らしい、とわかって、ロムド国民は誰もが驚嘆しました。隣国エスタとの対立は、数百年にも及ぶ歴史があります。その血みどろの争いに、ついに終止符が打たれたのです。
誰もが金の石の勇者の功労を認め、その勇者の育ての親であるゴーリスの地位もまた相対的に上がりました。国王も国政にゴーリスの意見を求めます。ゴーリスは国の庶民の暮らしぶりに精通していたので、その見解が高く買われたのです。いつのまにかゴーリスは、国王の片腕とも言える身分にまで上り詰めていました。
けれども、国の誰からも敬われる立場になっても、ゴーリスは相変わらずゴーリスのままでした。金の石の勇者を見つけたもう一人の功労者である、占者ユギルと共に、淡々と、そして休むことなく国王に仕え続けていました。偉ぶることもなく、派手な暮らしぶりを始めるでもなく、相変わらず偏屈で無愛想なままです。そして――相変わらず、浮いた噂ひとつありませんでした。
独身で大貴族で国王の重臣の彼には、今では途切れることもなく縁談が舞い込むようになっていましたが、本人は仕事が忙しいから、と片端からはねつけていました。それは、どれほど身分高い相手からの話であっても関係なくて、相手の面子に配慮するなどということもなく、即座に断ってしまいます。宮廷の中では、ゴーラントス卿は仕事と結婚をして一生独身のままで過ごすのだろう、とさえ噂されていました。
そんなある夜、ゴーリスの屋敷に訪問者がありました。いえ、正確には侵入者です。まだ夜更けには早い時間帯でしたが、闇に乗じて黒い服の数人の男たちが屋敷に入りこんできて、突然ゴーリスを取り囲み、力ずくで縛り上げたのです。
さすがのゴーリスも、不意を突かれては抵抗のしようがありませんでした。屋敷の中では武器を外していたので、自慢の剣で戦うこともできず、罪人のように縄をかけられてわめきます。
「何者だ!? 俺にこんな真似をして何をするつもりだ!?」
宮廷での地位が上がると言うことは、それだけ政敵も増えると言うことです。こんな危険な事態も予測して屋敷の守りを強めておいたのに、あっさりそれを突破されてしまったことにも衝撃を受けていました。
すると、男たちの後から、ひとりの人物が部屋に入ってきました。
「何もいたしませんわ。ただ、お約束のものをいただきにまいっただけです」
ジュリアでした。栗色の豊かな髪を結い上げ、深い緑のドレスに身を包んでいます。半年前の取り乱し方が嘘のように、その晩の彼女は落ちつき払って見えました。
ゴーリスは顔をしかめました。
「約束のものというのは慰謝料のことか? ならば、あなたの望むものはなんでも支払うと言っておいたはずだ。こんな大げさな真似などする必要はないだろう」
だから早く縄を解け、とゴーリスは言いましたが、ジュリアは首を振りました。穏やかにほほえみながら答えます。
「いいえ、ゴーラントス様。私がいただきたいものは、こうしなければ手に入らないのです」
ゴーリスの表情が変わりました。疑うような目で、ジュリアの表情を探ります。
「俺の命をよこせというのか? それだけは無理だと言っておいたはずだぞ」
「いいえ、そんなものは」
ジュリアは笑い声を上げました。首をかしげるようにして、とらわれの剣士を見上げます。
「私がいただきたい慰謝料はこれですわ。あなた様ご自身を私にくださいませ、ゴーラントス様。それ以外のものは、何もいりません」
ゴーリスは呆気にとられました。目の前の女性をただ見つめてしまいます。
もう娘とは言えない歳になってしまったジュリアですが、その分、落ちつきと賢さを漂わせながら、じっと彼を見つめ返しています。その瞳の奥には、強い決心の色がありました。
ゴーリスは思わず目をそらすと、苦笑いを浮かべました。
「馬鹿なことを考えつく……。そんなことができるわけがないだろう。俺を慰謝料にもらい受けるなんてことが、どうしてできると思うのだ」
「でも、あなた様は、自分に支払えるものなら、なんでも私にくださると誓ってくださいましたわ」
ジュリアの声はあくまでも穏やかです。
馬鹿な、とゴーリスが笑い飛ばそうとしたとき、別の人物の声が部屋に響いてきました。
「おやおや、いけませんね。ゴーラントス卿ともあろうお方が、約束を反故(ほご)にすると言われるのですか?」
長い銀髪に左右色違いの瞳の青年が部屋に入ってきました。暗い灰色の衣ですっぽりと身を包んでいるので、うっかりすると、夜の暗がりに溶け込んで見逃してしまいそうなほどです。
青年を見たとたん、ゴーリスはまた顔をしかめました。
「なるほど、ユギル殿も一枚かんでいたのか。どうりで、我が家の守りがあっさりと破られたはずだ。天下の占者がついていたのではな」
「こうでもしなければ卿はお約束を守らない、と占盤に出ておりましたので」
とユギルがすまして答えます。ゴーリスはますます渋い顔になりました。
「これはあなたには関係のない話だ、ユギル殿。ジュリア殿から何を聞かされたかわからないが、我々二人の話に、第三者が口をはさまないでもらいたい」
けれども、いくらにらまれても、ユギルは涼しい顔のままです。
「そうはまいりません。卿はジュリア様に、確かに慰謝料としてなんでも与える、とお約束されましたし、手紙にもきちんとそう残っております。約束はお守りください、ゴーラントス卿。あなた様ご自身が、ジュリア様への慰謝料です」
「だから、何故そうなるのだ!?」
ゴーリスはたまりかねて声を上げました。
「そんなことができるわけがあるまい! 馬鹿を言うにもほどが――」
「あなたを私の故郷に連れて帰ります」
とジュリアが突然答えました。
「あなたは私のものですもの、私の好きにさせていただきますわ」
ゴーリスはまた呆気にとられてしまいました。なんと答えて良いのかわからなくなったようで、しばらく考え込んでから、やっと口を開きました。
「ジュリア殿、常識で考えられよ。いくら、なんでも支払うと言っても、できるものとできないものがあるだろう。それに、俺は今、ディーラを離れるわけにはいかない。陛下がお許しになるはずがないのだからな」
その声は、まるで小さな子どもをあやして言い聞かせるような口調でした。ゴーリスを見上げ続けるジュリアの目の中に、悲しい色が流れました。
「本当に困ったお方だ……」
とユギルがあきれたように肩をすくめ、急に部屋の扉の外へ呼びかけました。
「ゴーラントス卿はどうしても『うん』とおっしゃいません。どういたしましょう、陛下?」
「なに!?」
ゴーリスが愕然としていると、今度はロムド国王自身が部屋の中に入ってきました。国務の場では必ずかぶっている冠を外し、ユギルと同じような暗い灰色の衣で身を包んで、お忍びの格好です。苦笑いをしながら占者に向かって言います。
「これ、ユギル。わしはこの場にはおらぬことになっているのだぞ。呼ぶのではない」
けれども、そう言いながらも、国王の口調はどこか楽しそうでした。
ゴーリスは本当に呆気にとられてしまって、しばらくは口もきけませんでした。目の前に立つ人々を眺め、その一番手前で自分に向き合っている女性を、つくづくと見つめてしまいます。
「陛下に直訴までしたのか……まったく、予想外のことばかりする人だ、あなたは」
ジュリアはほほえみました。ことばで答えることはできません。ただ、万感を込めて男を見つめ返します。その瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていました。
すると、ロムド国王が言いました。
「わしはジュリア殿の訴えに基づいて、この一件を詳細に検討した。確かにジュリア殿の請求には効力がある。そなたは彼女との契約に従う義務があるのだ、ゴーラントス卿。今すぐ、ジュリア殿の請求通りに慰謝料を支払うように。それができないというのであれば、そなたは相応の罰を受けることになるぞ」
「罰……どのような」
とゴーリスが聞き返します。国王は重々しく答えました。
「王都追放だ。十年も待ち続けた婚約者をむげに見捨てるような薄情な人間を、わしの家臣に数えるわけにはいかぬ。即刻ディーラを立ち去って、地方へ下り、北の辺境で隣国からの攻撃に備えるが良い。行き先は、ジュリア殿の故郷だ――」
ゴーリスは思わず天井をふり仰ぎました。ぐるです。国王もユギルもジュリアも、全員がぐるになって、ゴーリスをなんとかひとつの結論に追い込もうとしています。
すると、国王が笑いました。王は年をとっていましたが、その声は張りがあり、意外なほど若々しく聞こえます。
「もっとも、実際にはゴーラントス卿に王都を去られるのは、ロムドにとって大きな損失だ。わしとしては、卿にはこのままディーラにいてもらって、卿の屋敷内で、ぜひジュリア殿への慰謝料になっていてもらいたいのだがな」
「陛下」
ゴーリスは目を閉じました。苦笑いしか出てきません。
すると、銀髪の占者が口を開きました。意外に思えるほど真剣な声で、こう言います。
「ジュリア様とご結婚ください、ゴーラントス卿。そして、幸せにおなりください。そうしていただかなければ、わたくしも陛下も、安心することができません」
ゴーリスは思わず目を開けてユギルを見ました。青年は、青と金の色違いの瞳に痛ましい色を浮かべながらゴーリスを見ていました。この二人の現在の状態は、自分の占いの結果が招いたことなのだと、占者はわかりすぎるほどに承知しているのです。
ロムド国王も静かに言いました。
「そなたもジュリア殿も、本当によく待ってくれた。これほど忠義に尽くしてくれる家臣を持てることを、わしは誇りに思っている。その忠信に報いたいのだ。過ぎてしまった十年は取り戻すことはできない。だが、この後の何十年という年月を、その空白を埋めるために使うことはできるだろう。二人共に生きていくことでな」
「陛下……」
ゴーリスは何も言えなくなって、ただつぶやくように繰り返しました。目の前に立つ女性を、また見つめてしまいます。
ジュリアはこらえきれずに泣き出していました。それでも、ゴーリスに向かってほほえんで見せます。
「半年の間、一生懸命考えました。処罰されることを覚悟で陛下やユギル様にもお願いしました。私は、あなたと一緒に生きていきたいのです。あなたのこれからの人生を、私にくださいませ。全てよこせ、とは申しません。あなたはこの国にも、金の石の勇者にも大事な方ですから。でも、あなたの人生の一部分は、ずっと私にもいただきたいのです。私を待たせて申し訳なかったと思うならば……それが、私への償いですわ……」
ほほえむ頬の上を、大粒の涙が転がり続けます。
ジュリア、とゴーリスはつぶやきました。敬称をつけ忘れたことには気づいていません。
やがて、黒ずくめの剣士はほほえみました。罪人のように縄をかけられた自分の姿を見回して言います。
「返事をする前に、これを解いてくれないか。俺は逃げも隠れもせん。それに……この格好では、あなたを抱きしめることができないからな」
ジュリアは両手で口を押さえました。見張った目から、さらに涙がこぼれ出します。それは嬉し泣きの涙でした。
縄を解かれ、部屋の真ん中で抱き合う二人を、占い師と国王はほほえんで見つめていました――。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
「とまあ、これが私たちが結婚するまでのいきさつよ」
と栗色の髪の貴婦人は長い思い出話をしめくくりました。ほわぁんとした顔で聞き惚れていたメールとポポロに笑って見せます。
「実際に私たちが結婚したのは、それからさらに半年後の、先月のことよ。貴族の結婚は支度に時間がかかるから、これでも早い方だったの。結婚してからも、あの人は相変わらずとても忙しかったのだけれど、あなたたちがこのハルマスを訪ねるとユギル様が占ってくださったおかげで、私たちも、思いがけず新婚旅行に来ることができたというわけなの。こんなにゆっくり過ごせるなんて本当に夢のようよ。あなたたちに感謝しなくてはね」
それを聞いてメールは何かを言いかけ、思い直したように口を閉じました。
本当は、「でも、あたいたちがいなかったら、とっくの昔にジュリアさんたちは結婚できてたんじゃないのさ」と言おうとしたのです。けれども、それは言ってもしかたのないことです。ジュリアたちは、過ぎた時間ではなく、これからの時間を見つめているのですから、メールたちにも何も言うべきことはないのでした。
「さあ、ちょうどケーキも焼けた頃のようね」
とジュリアがかまどの扉を開けながら言いました。スグリのケーキの甘酸っぱい匂いが台所中に漂い始めます。
すると、そこへ入口からゴーリスが顔をのぞかせました。後ろには銀髪の占い師を従えています。
「おお、いい匂いがするな」
と夫に声をかけられて、ジュリアは穏やかにほほえみ返しました。
「メールとポポロが作ったのよ。フルートとゼンたちに食べさせたいって。上手にできたわね」
「そりゃ、さぞかしあいつらが喜ぶだろう」
とゴーリスも笑います。
そんなゴーリスとジュリアを、なんとなくどぎまぎしながら少女たちは見つめていました。表面からは見えなくても、ふたりの間にはしっかり通い合う心があるのだと考えます。
のぼせたような顔をしている少女たちに、ゴーリスの後ろに立つユギルが、おや、という表情をしましたが、口に出しては何も言いませんでした。
そこへ、今度は大柄な黒い鎧の戦士が顔を出しました。エスタの辺境部隊のオーダです。足下には、いつものように白いライオンの吹雪がお伴についています。
「ここにいたのか、ゴーラントス卿。俺たちはそろそろエスタに戻らねばならん。挨拶しようと思って探していたんだ――」
ゴーリスたちが、廊下で話を始めました。
ジュリアは少女たちを見ました。
「さあ、こっちはフルートやゼンたちを探さなくちゃね。ケーキでお茶にしましょう」
「あたいが呼んでくるよ!」
メールが即座に答えて台所から飛び出していきました。廊下は通らずに、裏口から直接中庭に出て行きます。
緑のあふれる中庭の小道を、風が吹き渡っていきます。心地よい初夏の風です。
木の葉のさやぐ音を聞きながら、メールは今聞いた物語を思い返していました。城で夫の渦王を待ち続けていた母の姿と、十年間ゴーリスを待ち続けたジュリアの姿が、どこかでだぶります。明るい茶色の瞳をした少年の顔が、頭の中に浮かんで消えていきます。
いつしか、メールは心の中でつぶやいていました。
待っていたら――待ち続けていたら、いつかその人が自分を振り向いてくれる日も来るんだろうか……? と。
中庭の上に広がる空は抜けるように青く、木立の隙間から見える湖の向こうには、デセラール山の頂が、青空を背景にくっきりと浮かび上がっていました。
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こんなもん、タイトルにしてどうするんだ! と言われそうですが、う~ん、事実でございます。
ジュリアとゴーリスのrakugakiを書き出したら、あらら~、伸びる伸びる~、なんだこの長さ。完璧にひとつの読み物と化しつつあります。
今日中には書き上がらないよ~! いや、まいった。(苦笑)
まあ、多分、明日には書き上がります。乞うご期待……と言っておいて、いいんだろうな。たぶん。
rakugakiなんだけどさ。rakugakiなんだ、けど、さ。
あはははは……あーあ。
なにやってんだか。(^◇^;)
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一昨日のrakugaki~ロキ~を「競争」というタイトルでサイド・ストーリー集に登録しました。
こういう作業があっという間にできるのが、オンライン小説の良いところかもね。
しかーし!
このサイド・ストーリーというのはあっという間にかけちゃうところが曲者ですな。書き上げて発表すると、すぐにまた別のが書きたくなってくる。今度はゴーリスの奥さんのジュリアさんのお話が書きたくなって、困っております。
いや、困るってのも変だけど、さすがに年賀状の準備が……。(苦笑)
でも、きっとどこかで時間を見つけて書いちゃうんだろうなぁ。
ま、しょーがないか。とことん執筆好きの私なんだもんねぇ。
とりあえず、間もなく、兄ちゃんの高校の保護者会に行ってきます。(笑)
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フルートとゼンとポチは家の前に立って、荒野の彼方を眺めていました。
地平線の向こうに夏でも白い頂が浮かんで見えます。ゼンの故郷の北の山脈です。そこを越えて、さらに遠い彼方へ行くと、一年中雪と氷に閉ざされた北の大地があるのでした。
少年たちは誰も何も言いませんでした。ただ黙って北を眺め続けます。けれども、フルートにはわかっていました。皆、想っていることは同じなのです。想っている人のことは、まったく同じなのです。その気持ちがあまりにも切なすぎて、誰もことばにすることができないのでした……。
すると、すぐ隣から声がしました。
「ねえ、兄ちゃんたち。なにをそんなにしょんぼりしてんのさ?」
あきれたような、幼い少年の声です。フルートたちは、えっ、とそちらを振り向きました。その声にはとても聞き覚えがあったのです。
そこにいたのはロキでした。茶色の髪に長いウサギのようなトジー族の耳をして、毛皮の服の代わりに、フルートたちと同じような布の服を着ています。灰色の瞳がいたずらっぽく、くりっと動いて、年上の少年たちを見つめてきます。
ゼンが声を上げました。
「ロキ! なんでおまえ、ここにいるんだよ!?」
遠い北の空に思い出していた人物が、すぐ目の前に立っていたのです。驚かずにはいられませんでした。ポチも目をまん丸にしてロキを見上げています。
けれども、フルートはすぐに気がつきました。この感覚、この展開には覚えがあります。そうか、と思わずほほえんでしまいます。
「これは夢だ……そうだね、ロキ?」
「あたり」
大きな瞳をくりくりさせながら、ロキが笑いました。
「だってさぁ、兄ちゃんたちがあんまり――。な、グーリー? 見てらんないよな」
少年が振り向いた先に、巨大な獣がいました。全身灰色の長い毛でおおわれた大トナカイのグーリーです。大きな角の生えた頭を振って、ヒホーン、と主人に同意します。
フルートは、ほほえんだままロキとグーリーを見つめました。夢でもなんでも、また会えたことがとても嬉しく思えます。そっと手を伸ばすと、茶色の髪に触れることができました。北の大地で何度もしてあげたように、優しく頭をなでてやります。
すると、ロキがふん、と頭をそらしました。小生意気そうな表情でフルートを見上げてきます。
「やめろよ、兄ちゃん。おいら、そんなことしてもらうほど子どもじゃないぞ」
けれども、そう言う表情のすぐ裏側に、頭をなでてもらって嬉しくて照れている、素直な少年の気持ちがのぞいていました。ゼンが笑います。
「何言ってやがる。北の大地でさんざんフルートに甘えてたくせによ」
「甘えてなんかいるもんか!」
ロキはたちまち口をとがらせ、ゼンに向かって、いぃーっと顔をしかめて見せました。そんなひとつひとつのしぐさまでが、本当にロキそのものです。年上の少年たちは、思わずまた声を上げて笑ってしまいました。
「なんだよ、笑うなよ!」
ロキはますますふてくされました。とても懐かしい口癖を言ってきます――。
シルの荒野を風が渡っていました。白っぽい緑の草がそよぎ、遠くで立木が梢を揺らしています。
そんな景色をしばらく眺めてから、ロキが言いました。
「ホントに、兄ちゃんたちの故郷って、北の大地と違うんだな。雪も氷も、どこにもないじゃないか」
「冬になれば雪は降るよ」
とフルートは答えました。
「荒野は風が強いからね。冬場はしょっちゅう吹雪も起きる。でも、さすがに北の大地ほど寒くはならないけどね」
本当にロキを連れてくることができたら、きっとこんなふうに会話したんだろうな、とフルートは、ふっと考えました。好奇心の強いロキです。きっと、いろいろなものに興味や関心を示して、あれもこれも尋ねてきたことでしょう。
「雪が見たいんなら俺の山に来いよ」
とゼンが言っていました。
「夏でも山頂からは雪が消えないからな。そら、あそこに見えてるだろう。あの一番高い山が、俺の故郷の北の峰だよ」
ふうん、とロキは青空の中に浮かぶようにそびえる山々を眺めました。大きな灰色の瞳をくりくり動かし続けています。見るものすべてが珍しくてしかたない、という表情です。
けれども、やがてロキはまた年上の少年たちを振り返りました。
「ねえさぁ、兄ちゃんたち。ちょっと勝負しようよ」
フルートたちは驚きました。
「勝負? なんの」
「競争だよ。おいらを乗せたグーリーと、兄ちゃんたちを乗せたポチと、どっちが先にゼン兄ちゃんの山に着けるか。おいら、グーリーと風の犬になったポチと、どっちの方が速いのか、ずっと知りたかったんだ」
たちまちゼンがあきれた顔になりました。
「馬鹿言え! あそこに見えていたって、北の峰まではものすごく遠いんだぞ。あそこまで競争したら、ポチがへばっちまわぁ!」
とたんにワン、とポチが吠えました。ちょっとむくれた顔をしています。ゼンの言うことは正しかったのですが、即座に自分の非力を指摘されたので面白くなかったのです。
「北の峰までは無理だけど、あそこの立木のところまでなら競争してもいいですよ。持久力じゃ絶対グーリーにかなわないけど、短距離だったら自信がありますからね」
「よし、決まった! ゴールはあそこの木のところまでね! グーリーだって、距離が短かったら本当に速くなるんだ。きっと、ポチにだって勝っちゃうからな」
「ワン、負けませんよ。ぼくは風なんですから」
ごうっと音を立てて、ポチが巨大な風の犬に変身しました。異国の竜を思わせる、白い長い体が荒野に伸びます。
思いがけない展開を年上の少年たちは面白がっていました。普通に考えれば風の犬の方が速いに決まっているのですが、ポチはフルートとゼンの二人を乗せます。一方のグーリーは小さなロキ一人を乗せるだけですし、しかも体力があります。どちらが勝つか、やってみるまでは予測がつきません。
「いい、行くよ!?」
グーリーの背中の上からロキが尋ねました。ポチの背中の上からフルートとゼンがうなずきます。
「ワン、いつでもいいですよ!」
とポチも答えます。
「それじゃ――走れぇ!!」
ロキの明るい声が響き、グーリーと風の犬のポチが、いっせいに荒野と空を駆け出しました。
二匹の獣のわきを風がごうごうとうなりながら吹きすぎていきます。ポチもグーリーも、どちらも驚くほどの速さです。
「そらっ、はいっ! 急げ、グーリー!」
ロキが手綱を鳴らして叫びます。
「行け、ポチ! グーリーなんかに負けるな!」
ポチの上ではゼンが叫んでいます。
二匹の獣は蹄の音を響かせ、風を切りながら駆け続けます。抜きつ抜かれつの良い勝負です。
ぐん、とグーリーがスピードを上げました。頭ひとつ分ポチの前に出たと思うと、みるみるうちにポチを追い抜いていきます。
「あっ、この野郎……!」
「ポチ、がんばれ!」
ゼンとフルートは思わず声を上げ、少しでも風の抵抗を減らそうと、ポチの上に身を伏せました。ポチの速度が上がり、ぐんぐんと追い上げ、グーリーに並びます。
「グーリー! グーリー、がんばれ!」
ロキが叫び続けています。またトナカイの速度が上がります。ポチを引き離して前に出て行きます。
「ワン、ホントに速いですね……」
ポチは感心したようにつぶやきましたが、次の瞬間、こちらもまた速度を上げました。ごぉっと激しい風の音が起こり、フルートたちは吹き飛ばされそうになって、あわててポチにしがみつきました。風の犬の全速力です。あっという間にグーリーに並び、次の瞬間には一気に抜き去っていきます。
ゴールの立木が目の前に迫ってきました。そのかたわらをうなりをあげながら飛び過ぎます。
「ひゃっほう! やったぜ、ポチ!」
「すごい! 勝ったよ!」
ゼンとフルートが歓声を上げました。ポチは速度を落としながら笑いました。
「短距離だからできるんですよ。長距離になったら、とてもグーリーには――」
そう言いながら振り向いたポチは、とたんに声を飲みました。一緒に振り返ったフルートたちも愕然とします。
そこには、後を追って駆けてくるロキとグーリーの姿はありませんでした。誰もいない荒野を、風が吹き渡っています。
地平線に向かって遠ざかっていく馬車が見えました。車輪の音を響かせながら、夕日を浴びて小さくなっていきます。
フルートもゼンもポチも、ただそれを見送りました。何も言えません。誰も、何も言えません……。
すると、すぐ近くから、また声がしました。
「だからぁ、どうしてそうしょげちゃうのさ、兄ちゃんたち。また会えるって言ってるじゃないか」
彼らの隣にロキが立っていました。グーリーの手綱を握りしめて、あきれた顔をしています。
ロキ、とフルートたちは少年を見つめました。すると、少年が肩をすくめました。灰色の瞳をくりっとさせて、えへへっ、といたずらっぽい声で笑います。
そして――
夢は覚めました。
フルートはベッドの上に起き上がりました。
東向きの窓からカーテン越しに朝の光が差し込んでいます。天気は悪くなさそうです。
柔らかな光が落ちる床の上にはマットが敷かれていて、その上でゼンが寝ていました。足下ではポチが丸くなっています。ゼンは、フルートの部屋に泊まるときには、いつもこんな風にして眠るのです。猟師小屋や戸外で寝ることが多いゼンは、ベッドより床の上にじかに眠る方が落ちつくのだと言っていました。
フルートがなんとなくそれを眺めていると、ゼンも目を覚まして、もぞもぞと起き出しました。フルートと視線が合うと、口の端で笑います。
「よう、おはよう」
「おはよう、ゼン」
フルートは笑顔を返しました。けれども、それは夢の名残を受けて、なんとなく淋しげな微笑になってしまっていました。
ポチも目を覚ましました。マットの上に立ち上がって、ぶるぶるっと身震いをします。
フルートはなんだかすぐには動き出せなくて、ベッドの上に座ったままでいました。たった今まで見ていた夢を思い出してしまいます。
すると、同じようにぼんやり座りこんでいたゼンが、つぶやくように言いました。
「また会える、か……」
フルートは、どきりとしました。自分の心の中の声が、そのままゼンの口から出てきたような気がしました。
すると、ポチもひどくびっくりした様子で言いました。
「ワン、どうしてそれを――もしかして、ゼンもロキの夢を見たんですか?」
「え、ポチもなの!?」
フルートも思わず声を上げてしまいます。
少年たちは互いに顔を見合わせてしまいました。三人ともが、同じ夢を見ていたようです。
「ワン、ぼく、ロキの乗ったグーリーと競争したんですけど……」
とポチが言い、フルートとゼンがそれにうなずき返します。
しばらくの間、三人は何も言えませんでした。それぞれに、もう一度夢を思い出します。
そのうちに、ゼンが苦笑いの顔になって言いました。
「ったく……俺たち、あいつに心配されてるぞ」
フルートも、ちょっと照れたように笑って見せました。ロキが彼らを心配して夢に出てきたのだとはっきりわかったからです。なんとなく、心の中にほの暖かいものがあふれてきます。
「ワン、元気出さなくちゃいけませんね」
とポチが言い、ゼンがまた苦笑いでうなずきました。
「だな。いつまでもしょぼくれてられるか――。おい、フルート。俺は今日、北の峰に帰るからな」
「え、今日!?」
フルートは驚きました。北の大地の戦いが解決したので、そろそろゼンも故郷へ帰らなくてはならない時期でしたが、それにしても、今日旅立つとは予想もしていませんでした。淋しさと一緒に、心細いような気持ちが襲ってきます。
すると、そんなフルートの顔を見て、ゼンが笑いました。
「なんて顔してやがる――! それこそ、俺たちはまた会えるだろうが! ちょっとの間だ。また遊びに来るからよ」
「ワンワン。今度こそみんなで楽しく集まりましょう!」
とポチが尻尾を振って言いました。先に仲間たちで北の峰に集まったとき、魔王に邪魔されたことを言っているのです。
「おう。メールもポポロもルルも呼んでな。みんなで大騒ぎしようぜ」
「そうだね……」
フルートもようやくうなずきました。優しい目になると、小さな少年の顔を思い浮かべて、心の中で語りかけます。
ロキ、君もいつか、ぼくたちの中に入って一緒に楽しめるといいね。そのときにはまた、風の犬になったポチと君が乗ったグーリーで競争もしようね。いつかきっと――きっと、そうしようね。
心の中で思えば、本当にその日が来るような気がしてきます。フルートの顔に静かなほほえみが浮かびました。
窓の外では鳥がしきりにさえずっていました。カーテン越しの光もまぶしい、明るい夏の朝でした。
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「フルート」シリーズのサイドストーリー集をアップしました~。
昇平のお迎え&病院の時間が来てしまって、大あわてでアップをすませたので、たぶん、あちこちに見逃しミスがあるとは思うのですが。アトデチャントミナオシマス。(^◇^;)
まとめてみたら、あ~ら、なんか本格的?(笑) こんな調子でポチポチ更新していって、で、1月になったらどーんと「6」を連載開始、ってのがいいのかもねー。(笑)
これから年末になって、気ぜわしい日が続きますが、サイド・ストーリーはちょっとした時間で書き上がるのが嬉しいところ。……というわけで、どうやら年末ぎりぎりまで、私は書き続けるつもりでいるらしいです。
ほ~んと、執筆バカよねぇ~。(爆)
☆フルート・サイドストーリー集 「金の石の休日」
http://www.sets.ne.jp/~asakura/tosyo/flute_side/flute_side00.htm
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世界の上空を移動していく天空の国。その巨大な世界は、地上の人々の目には映りません。天空の民と呼ばれる魔法使いたちや、多くの魔法の生き物たちを乗せながら、人知れず、今日も空を飛び続けています。
天空の国には中央に死火山がそびえ、その頂上に天空城が建っています。正義と光の王である天空王が住み、貴族とその家族だけが出入りすることを許されている場所です。天空の貴族は血筋では決まりません。大きな魔力と、正義の民として人に尽くす心を持ち合わせた魔法使いが、天空王から貴族に任命されるのです。
その中でも一番若い貴族がポポロでした。まだ、たった十二才です。魔法の潜在能力は貴族の中でもトップレベルだろうと言われていましたが、一日に二回しか使えない制限がある上に、コントロールがまだ悪いので、実際に貴族として働くよりも、他の貴族の子弟に混じって、城の学校で魔法修行をしていることのほうが多いのでした。
今日も学校が終わりました。ポポロは犬のルルと一緒に、城の中庭に出ました。中庭には花が咲き乱れています。一年中、途切れることなく咲き続ける花園ですが、その美しい景色には目もくれずに、ポポロは溜息をつきました。
「どうしたの、ポポロ。また授業で失敗したの?」
とルルが尋ねてきました。人のことばを話し、風の犬に変身できるこの犬は、ポポロの姉のような存在です。物心つく前から、ずっと一緒に育ってきたので、いつだって頼りないポポロを心配してくれます。ポポロは首を振りました。
「ううん、今日は大丈夫だったわ……。今日やったのは、炎の魔法と、いにしえの巨人の召喚魔法。炎の魔法がちょっとはじけて、教室の壁を焦がしちゃったけど、それは減点対象にはならなかったの。巨人の方は幻しか出せなかったけど、今の段階ではそれで充分だって先生から言われたわ……」
けれども、ポポロの顔はやっぱり冴えません。物思うような表情で、じっとうつむいています。
ルルはそれを見上げました。少しの間ことばを選んでから、話しかけます。
「会いたいんでしょ、フルートたちに? 行きましょうよ。私が風の犬になって運んであげるわよ」
とたんにポポロは顔を赤らめました。あわてたように大きく頭を振ります。
「だめよ、ルル……。あたしたちは、地上に困ったことが起きるか、フルートたちが呼んでくれない限りは、地上に下りることはできないんだもの。北の大地から帰ってきてから、まだたった一週間よ。こんなにすぐに呼んでくれるわけないわ……」
本当は呼んでほしいのに、という気持ちを無意識のうちに強くにじませて、ポポロが答えます。今度はルルが溜息をつく番でした。本当に、引っ込み思案でおとなしいポポロです。決まりがどうでも、自分がそうしたいなら、こっそり地上に飛んで行ったっていいと思うのですが、ポポロはそういうことは絶対にしません。ただ、何も言わずにうつむいて、泣きそうな目をしながら、地上の仲間たちが自分を呼んでくれればいいのに、と願い続けているだけなのです。
ルルはフルートの顔を思い浮かべました。世界を救う金の石の勇者などという大役を担いながら、誰よりも優しい気持ちをもっている少年です。
ねえ、フルート、ポポロを呼んであげなさいよ! とルルは心の中で少年に呼びかけました。ポポロはこんなに待ってるのよ。遠慮なんかしてる場合じゃないでしょう。無理やり呼びつけることくらいやってかまわないのよ。男でしょ!?
けれども、優しい優しいフルートがそんな強引な真似をするはずがないことも、ルルには充分わかってしまっているのでした。
すると、中庭の入口から呼ぶ声がしました。数人の少年少女たちが手を振っています。背格好はそれぞれ違いますが、皆、ポポロと同じ黒い長い衣を着ていています。
「おーい、ルル、ポポロ」
「約束よ。今日も北の大地の戦いのことを聞かせてちょうだい」
「ねえねえ、早くぅ。あたし、授業中もずっと、続きを聞きたくてしょうがなかったんだから」
ポポロと一緒に城の学校に通っているクラスメートたちです。笑顔で大きく手招きしています。ルルはすぐに返事をしました。
「わかったわ! 今すぐ行くから!」
天空の国ではもの言う犬は人とほとんど同じ扱いを受けます。犬のルルがそんなふうに答えても、子どもたちは当然のような顔をしていました。
ルルはポポロを見上げました。
「今日はあなたもいらっしゃいよ。みんな、北の大地での話をすごく楽しみに聞いてるのよ。あなたが来れば、みんな喜ぶわ」
けれども、ポポロは黙って首を振りました。以前ポポロが通っていた学校と違って、城の学校の子どもたちはみんな親切です。学校の先生自身に力があって、暴走しがちなポポロの魔力を上手に指導してくれるので、他の子たちも安心してポポロを見ていられるのかもしれません。以前のようにいじめられたり馬鹿にされたりすることがないのはわかっているのですが……ポポロは、どうしてもなじみのない人と一緒にいるのが不安なのでした。何を話していいのか、どんな態度をとっていいのか、全然わからなくて、凍りついたように固く黙り込んでいることしかできないのです。そして、そんな自分がいることで、他の子たちの楽しい気持ちに水を差してしまうと思っていました。
「あたし、もう少し庭を散歩していたいの。ルルだけで行ってきて……」
ホントにこの子はもう、という顔をして、ルルは子どもたちの方へ行きました。子どもたちは少しの間ポポロを待っていましたが、ポポロが動こうとしなかったので、ルルを囲むようにしてどこかへ歩いていってしまいました。戦いの話を聞かせてくれるのはいつもルルです。ルルさえ来てくれれば、彼らはとりあえず満足だったのです。
ポポロはまた溜息をつきました。ルルまで行ってしまって、なんだか、本当にひとりぼっちのような気がします。遠い地上にいる仲間たちの顔を、ついつい思い出してしまいます。優しいフルート、明るくて頼もしいゼン、元気でとても情が深いメール、小さい体でいつだってみんなに気配りしてくれるポチ……。今すぐにもまた会いたくて、涙がこぼれてきそうになります。ポポロはとても泣き虫です。本当に、大きな瞳のすぐ際まで涙がこみ上げてきました。
あの仲間たちなら、ポポロがどんなに引っ込み思案でも全然気にしないでいてくれます。無理に引き込むこともしないかわりに、決して無視したりもしないのです。だから、ポポロも彼らの中でなら、安心してありのままでいることができました。大好きな大好きな仲間たちです――。
ポポロは中庭のさらに真ん中に作られた生け垣の近くに来ていました。赤、白、黄、ピンク、紫、オレンジ、青……さまざまな色合いのバラの花が、ひとつの根から伸びた枝で咲き乱れています。生け垣の正面には、バラの枝を絡ませたアーチがあって、そこが生け垣の内側に続く唯一の入口になっていました。
ポポロが立ち止まって目に浮かんだ涙をこすっていると、バラのアーチをくぐって背の高い男性が出てきました。星のきらめきを放つ黒い長い衣を着て、金の冠をかぶっています。その髪とひげは、光そのもののような銀色をしていました。
ポポロは驚いて、あわてて数歩飛び下がりました。天空王です。挨拶をしようと思うのに、気後れしてしまってことばが全然出てきません。ただ、真っ赤になって深々と頭を下げることしかできませんでした。
すると、天空王がポポロを見ました。温かいまなざしです。まるでよく知っている近所の子どもに話しかけるように、優しい声で話しかけてきます。
「いよいよ明日からだな、ポポロ。友だちと話してこなくて良いのか?」
ポポロはさらに真っ赤になると、大きく頭を振りました。天空王は天と地で起こる出来事をすべて見通す目を持っています。自分がなにを考えているのかも、すっかり読みとられているような気がして、ポポロは本当になにも返事ができなくなってしまいました。
そんな少女を天空王はじっと見つめました。十二才なのに、もっとずっと幼く見える少女です。華奢で小さな体の中に驚くほど強い魔力を抱えています。進む方向さえ間違えなければ、将来はきっと一流の貴族になって行くのに違いありません。
天空王は言いました。
「もしも今するべきことがないのならば、働いてもらいたいことがあるのだが。中に入って鏡の泉をのぞきなさい。そうすれば、そなたのするべき仕事が見えるはずだ」
ポポロは顔つきを変えました。小さくても、子どもでも、自分は天空の国の貴族です。天空王からこんなふうに言われたときには、すぐに命令に従わなければならないのでした。ただ――
ポポロは不安そうに天空王を見上げました。
「あの……あたしは学校でもう今日の魔法を二つとも使い切ってしまったんですが……。それでもお役に立つことができますか?」
天空王は、すべてを見通す目でほほえんでうなずきました。
「むろんだ。そして、これはそなたにしかできないことだ。中に入りなさい」
そして、そのまま天空王は立ち去ってしまいました。もうポポロを振り向こうともしません。けれども、それは信頼の表れでした。そんなふうにポポロに言えば、彼女が必ず命令に従うと、天空王は知っているのでした。
ポポロは生け垣のバラのアーチをくぐりました。生け垣の内側では、バラだけでなく、たくさんの種類の花が咲き乱れ、さまざまな色や形の植物が葉を揺らしています。その真ん中には、鏡のように銀に光る泉がありました。水がこんこんとわき出している魔法の泉ですが、その表面は静かで、本当にガラスのようになめらかでした。そこには地上のさまざまな出来事が映ります。ポポロたちが貴族としての役目を知るためにのぞく場所でした。
ポポロは、いつもそこに近づくとドキドキしてしまいます。泉は必ずその人にできる仕事や役目を映すのですが、ポポロはいつだって、本当に自分にそれができるんだろうか、と不安になってしまうのです。人一倍強力な魔力を持ちながら、ポポロには、自信というものがまるでないのでした。
ポポロは泉の縁に立って、そっと鏡のような水面をのぞきました。黒い衣を着た自分自身の姿が映ります。今にも泣き出しそうな顔をしています。そして、その向こうに、ひとつの地上の光景が映り始めました――。
ポポロはバラの生け垣のアーチからまた中庭に飛び出しました。庭の向こうに向かって大声で呼びかけます。
「ルル! ルル――!!」
ほんの少し間があってから、風の犬が中庭に飛び込んできました。白い幻のような体の中で銀毛が光っています。ルルです。彼女はどこにいても、ポポロの呼び声を聞くことができます。せっぱつまったポポロの声に驚いて、風の犬に変身して飛んできたのでした。
そんな彼女へ、ポポロは飛びつきました。
「急いで地上に行くわよ! 天空王様のご命令なの!」
「地上へ?」
ルルは驚きました。ポポロが今日の魔法を使い切っていることはルルも知っていました。そんなポポロに天空王が出動の命令を出したことに驚いたのです。
けれども、ポポロには説明している余裕もないようでした。ルルの背中に飛び乗ると、首に抱きついて叫びました。
「行って、ルル!」
どんなに小さくてもポポロは天空の国の貴族ですし、ルルはそれを運ぶ風の犬です。二人はためらうことなく飛び立ち、地上に向かって下っていきました。
☆。・:*:.・★,。・:*:.・☆
部屋にフルートのお母さんが入ってきました。
ベッドにずっと前足をかけてのぞき込んでいたポチが、お母さんを振り返ります。その黒い瞳は、うるんでいつもよりいっそう大きく見えます。お母さんはまなざしに優しさを込めて子犬を見つめ返しました。
「フルートの具合はどう? ポチ」
子犬は首を振りました。
「ワン、まだ熱が下がりません……。全然目を覚まさないし……」
うるんだ瞳がゆれました。犬は涙を流すことができませんが、もしも泣くことができたら、ポチはきっと大粒の涙を流しているのに違いありませんでした。
お母さんはそんなポチの頭をそっとなでてやりました。熱を出した息子のことも気がかりでしたが、それを心配し続けるポチのことも同じくらい心配でした。
「大丈夫よ」
とお母さんは安心させるように言いました。
「お医者様も言っていたでしょう? フルートは疲れが出ただけなの。北の大地での戦いは本当に大変だったのね……。お薬も効かないけれど、時間さえたてば、ちゃんとまた元気になってくるのよ」
だから、そんなに心配しないでね、と言い聞かせながら、お母さんはフルートの額から布を取り上げました。熱く湿った感触が手にじんわりと伝わってきます。お母さんの胸にも急に不安がわき上がってきました。
フルートが突然熱を出してからもう三日が過ぎるのに、熱が下がる気配はいっこうにありませんでした。その間、フルートは夢うつつに時々水を飲むだけで、一度も目を覚まさないのです。高熱のために痩せ衰えてた寝顔が痛々しく見えます。頬は真っ赤ですが、額や目のあたりは白く血の気がなく、汗で濡れた額に金色の前髪が貼り付いています。それを眺めていると、ポチでなくても、本当に大丈夫だろうかと心配になってくるのでした。
お母さんは不安を洗い流すように手桶の水で布をゆすぎ、固く絞り直すと、それをまたフルートの額にのせました。フルートが短くうめき声を上げてちょっと頭を動かます。お母さんはあわてて布をのせ直しました。フルートは浅く早い息をしたまま、少しも目を開けません……。
泣きそうな様子でそれを見つめ続けるポチに、お母さんは言いました。
「悪いんだけど、少しの間だけフルートをお願いできる? 畑に行って野菜を採ってこなくちゃいけないの」
ポチは黙ってうなずきました。目はフルートを見つめたままです。お母さんは静かに子ども部屋を出ていきました。
ポチは胸がつぶれそうな想いでいました。
フルートがこんなに長い間、具合が悪いのは初めてのことです。小柄で優しげな姿をしていても、フルートは案外丈夫なのです。どんなに寒い季節にだって、めったに風邪もひかないのに、ゼンが北の峰へ帰っていったその夜から突然高熱を出して、それからずっと下がらないのです。お医者様の言うとおり、北の大地での戦いの疲れが一気に出てきたのに違いありません。けれども、あんまり高熱が続くと、ポチはフルートがこのまま死んでしまうのではないかと、無性に心配になってくるのでした。
ポチは部屋の机の引き出しを振り返りました。フルートの金の石はそこにしまってあります。押し当てただけで、あらゆる怪我や病気を一瞬で治してしまう魔法の石です。けれども、金の石は北の大地の戦いが終わってから眠りについてしまっていました。今はもう、フルートがどんなに苦しんでいても、病気を癒す力はありません。
ふいに、フルートが声を上げました。
「……ない、ポポロ……!」
うわごとです。熱に浮かされながら夢を見ているのです。
「……ろ、ゼン、メール……だ……ポチ、ルル……」
なんの夢を見ているのか、ポチにはわかりません。けれども、きっとそれは戦闘の場面なのです。仲間たちを心配して呼びかけているのが声の調子でわかります。夢の中でもフルートは敵と戦い、仲間たちを守ろうとしているのに違いありませんでした。
フルートの声がひときわ高くなります。
「ロキ、逃げろ――!」
ポチは思わず目を閉じました。それ以上フルートを見ていられなくて、ベッドから前足を下ろし、しょんぼりとうなだれてしまいます。
北の大地の戦いは終わりました。けれども、フルートの中では、きっとまだ戦いが終わっていないのです。熱に浮かされた悪夢の中で、フルートはまだ戦い続けているのです。仲間たちを守ろう、助けようと、死にものぐるいになりながら……。
部屋に足音が近づいてきました。お母さんが戻ってきたようです。畑に行ってきたにしては早いので、何か忘れ物をしたのかもしれません。
すると、足音が部屋の前で立ち止まって、静かにまたドアが開きました。お母さんよりずっと小柄な気配が入口に立っています――。
ポチはびっくりして振り向きました。
そこにいたのはポポロでした。赤いお下げ髪に黒い星空の衣、緑の宝石の瞳は今にも泣き出しそうに大きくなっています。その足下にはルルもいました。茶色い長い毛並みのところどころで、トレードマークの銀毛が光っています。
ポチも、ポポロとルルも、すぐには動けませんでした。部屋の入口と中から見つめ合ったまま、ことばもなく立ちつくしてしまいます。
すると、フルートがまたうめきました。苦しそうな声を上げて頭を動かした拍子に、額の布がずり落ちます。
ポポロがはじかれたように動いて、ベッドに駆け寄ってきました。
「フルート! フルート……!」
けれども、いつもなら絶対に聞き逃すはずのないポポロの声さえ、フルートの耳には届かないようでした。いつまでも夢の中で戦ううわごとだけが続いています。ポポロはベッドに飛びつき、そんなフルートをのぞき込みました。
後について部屋に入ってきたルルが、ちらりとそれを見上げてから、ベッドの足下でうなだれるポチに近づきました。ぺろぺろと顔をなめてやります。
「そんな顔をしないの、ポチ。フルートは大丈夫よ。後はポポロに任せておきなさい」
ポチはルルを見ました。いつもすましているその顔が、今はただポチを安心させるように優しいほほえみを浮かべています。ポチはなんだかたまらなくなって、ルルの茶色の毛並みに頭をすりつけ、体をすり寄せました。ルルはただ、黙ってポチをなめ続けてくれます。柔らかな舌の感触が、泣きたいぐらい優しく暖かく感じられます。
「いらっしゃい、ポチ」
とルルが誘って、二匹の犬は開いていたドアから部屋の外へ出て行きました。
ポポロはフルートのベッドのわきにひざまずくと、手に持っていた植物の葉をそっとフルートの額に載せました。楕円形の大きな葉で、透きとおるような緑色をしています。その上からポポロが小さな自分の手を重ねると、やがて、葉の色がゆっくりと変わり始めました。ほんのりと赤みを帯び始め、その色がどんどん濃くなっていって、やがて血のような赤い色に変わっていきます。
それと同時に、フルートの頬から熱の赤さが消えていきました。ほてっていた顔が普通の顔色に戻り、息づかいが次第に落ちついていきます……。
やがて、フルートは目を覚ましました。
長い間の熱に落ちくぼんだ目が、不思議そうに少女を見上げます。
「これは、夢かな……ポポロがいるなんて……」
かすれた声でそう言います。まだ顔色は悪く、声にも力はありません。ただ、熱だけは下がったようで、葉の色はもうそれ以上赤く変わらなくなっていました。
静かにそれを額から取りのけながら、ポポロはほほえんで見せました。
「夢じゃないわ、フルート……。天空王様がフルートのところへあたしを使わしてくださったの。天空の国から薬草を持ってきたのよ。もう熱は下がったから、大丈夫よ……」
話しながら、緑の瞳から大粒の涙がこぼれました。くすんくすんと泣き出してしまいます。
そんなポポロをフルートは青い瞳で見上げ続けていました。まだ病気が完全に去ってはいない、うるんだ暗い瞳です。それでも、フルートはポポロにほほえみかけて言いました。
「泣かないで、ポポロ……泣かれちゃうと、心配で、また具合が悪くなりそうだよ……」
ポポロがびっくりしたように泣きやみました。
そんな彼女に、またフルートはほほえみました。影の薄い、弱々しい微笑です。そして、疲れたように、ふうっと大きな息を吐くと、そのまま目を閉じました。
「フルート!」
ポポロは思わずフルートにすがりつきました。なんだかフルートが遠くへ行ってしまいそうな、不安な想いにかられます。痩せてしまった胸から、浮き出した肋骨の感触が伝わってきます。
すると、フルートがまた目を開けました。またポポロに笑って見せると、ゆっくりと毛布の中から手を伸ばして、少女の頬に触れます。熱が下がったフルートの手は、逆に今度はいやに冷たく感じられました。
「熱を下げ過ぎちゃったのかしら」
ポポロがまた泣きそうになりながら言いました。持ってきた葉は、天空の国にだけ生える熱冷ましの薬草です。余分な熱だけを取り除くはずなのですが、なんだか、フルートには効き目がありすぎたように思えます……。
「大丈夫だよ」
とフルートが言いました。その手が力なく滑り落ちていきそうになったので、ポポロはとっさに両手でそれを支えました。フルートの手が、ポポロの頬と両手に優しくはさまれる形になります。
フルートはちょっと目を丸くすると、すぐに、ふふ、と笑いました。さっきよりもずっと元気な感じの笑い声でした。
「こんなところを、見られたら……絶対に、後でぶん殴られるな…………」
え? とポポロが不思議そうな顔をしました。フルートが何を言っているのかわからなかったのです。この小さな魔法使いの少女は、自分がフルートとゼンの二人から想いを寄せられていることに、まったく気がついていません。
「なんのこと?」
と尋ねたポポロに、フルートはまた声に出して笑ってみせました。
「ちょっとね……ぬけがけかも、って話……」
ポポロはますます不思議そうな顔になるばかりでした。
そんなポポロに、フルートは言いました。
「このまま、もう少しそばにいてくれる……?」
普段から優しいフルートですが、熱で弱っているせいか、なんだかいつにも増して優しい口調です。ポポロは思わず顔を赤らめながら、黙ってうなずき返しました。
フルートは満足そうにほほえんで、また目を閉じました。もう、どこかへ言ってしまいそうな、はかない気配は漂いません。片手をポポロの頬から離して、今度は少女の手を握りしめます。ポポロはいっそう赤くなりましたが、フルートの手を振りほどこうとはしませんでした。フルートの息づかいが次第に深く規則正しくなっていくのを、かたわらでじっと見守り続けます――。
フルートのお母さんが畑から野菜の入った籠を抱えて戻ろうとした時、家の裏手から突然何かが飛び立ったような気がしました。お母さんは、はっとしました。それは、風の犬のように見えたのです。背中には小さな人影も乗っていたような気がします……。
「フルート! ポチ!」
お母さんは思わず籠を放り出して家に駆け込みました。自分の息子たちは金の石の勇者とその仲間です。世界に危険が迫ったら、いつ何時でも旅立たなければならないのが宿命なのです――が、いくらなんでも、今この時に出発するのは無謀すぎました。フルートは三日三晩の高熱に苦しめられていたのです。
恐ろしい予感に胸が苦しくなりながら、お母さんは子ども部屋に飛び込みました。子どもたちが旅立ったときの常のように、空っぽの部屋と開け放たれた窓が目に飛び込んでくるのに違いない、と思っていました。
ところが、フルートはベッドの上で眠っていました。熱はすっかり下がったようで、落ちついた顔色で寝息を立てています。さっきまでの苦しそうな様子が嘘のような、安らかな寝顔でした。
その足下の毛布の上では、ポチが丸くなっていました。こちらも、フルートが落ちついたことにすっかり安心して、眠ってしまっています。お母さんが部屋に飛び込んできても、まったく目を覚ましません。
「まあ……」
お母さんは思わず声を上げ、ほっと胸をなで下ろしました。さっきの風の犬や子どもの姿は見間違いだったのかしら、と考えます。フルートもポチもぐっすり眠っていて、起き出していたような形跡はありません。
そのとき、毛布の上に出ていたフルートの手の中で、何かが光ったような気がしました。まるで星の光のように、きらきらと小さくまたたきます。けれども、お母さんが、はっと目をこらしたときには、光もまたたきも、なにも見えなくなっていました――。
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「いいや、俺の方が絶対に高くなってる! 間違いない!」
ゼンが力をこめて言い切ります。たちまちフルートは不満そうな顔になりました。
「なんで断言できるのさ。立ったときの目の位置は、ぼくの方がほんの少し上じゃないか」
「目の場所で背丈がわかるか! よぉし、論より証拠だ、比べよう!」
「いいとも。でも、正確にだよ。目分量やごまかしは、なしだからね」
「馬鹿野郎。俺がそんな姑息な真似をすると思うのか」
「この件に関しては、すると思う」
「んだとぉ――!?」
夜に包まれた屋敷の部屋に、二人の少年の声が響き渡っていました。ここは湖岸の町ハルマスにある、ゴーリスの別荘です。フルートとゼンはフルートの部屋で、さっきから騒々しく言い合っていたのでした。
ベッドの上に丸まったポチが、あきれた顔でそんな二人を眺めていました。フルートたちが話しているのは、自分たちの身長のことです。今、フルートとゼンはほとんど同じ背丈なので、ことあるごとに、どちらが高いか、高くなったか、と張り合っているのです。
「よし、この柱に印をつけて比べようぜ! どっかにチョークか木炭はないか?」
「頭の上に小さな板をあてよう。そうすれば正確に測れるよ」
二人ともむきになって部屋中を探し回りますが、いくら探しても目的のものが見つからないので、とうとう部屋を飛び出して、屋敷の中に探しに行きました。
やれやれ、とポチは溜息をつきました。フルートもゼンもいつも本当に仲が良いのに、こと身長に関してだけは、どちらも絶対に譲りません。背が高かろうが低かろうが中身には全然関係ないのに、と思うのに、二人にとってはそうではないのです。特に、フルートがあんなにむきになるのが不思議でした。いつもなら、周囲から背が低いことをからかわれたって、ちょっと肩をすくめるだけで受け流してしまうのに……。
ばたばたとフルートとゼンが部屋に戻ってきました。手に木片やチョークを持っていて、さっそく柱の前に立って測り始めます。
「あ、この! 今、手が動いたぞ。三ミリは下に動いた!」
「ええ? そんなことないよ。ゼンの気のせいさ」
「いいや、絶対動いた! もう一度測り直せ!」
「わかったよ。測ればいいんだろう!」
二人とも次第に喧嘩腰です。
はぁ、とポチはまた溜息をつきました。ここにメールやポポロがいてくれたらなぁ、と考えます。メールがこの場面を見たら、「あんたら、何やってんのさ! ばっかじゃないの?」と一喝してくれるだろうし、ポポロがいたら、きっと涙ぐんでしまって、フルートもゼンもそれを見て喧嘩どころではなくなるでしょう。けれども、少女たちはもうここにはいませんでした。闇の戦いが解決したので、メールは西の大海へ、ポポロたちは天空の国へ、それぞれに帰っていってしまったのです。
「こら、ゼン、そんなに押しつけるなよ! 痛いじゃないか!」
「おまえの髪はくせっ毛だから、それを平らにしてるだけだ。立ってる髪の毛の分、背を高くしようったって、そうはいかないからな」
「痛いったら! ぼくを縮ませようとしてるだろう?」
「うるせえ! 男ならぐだぐだ騒ぐな!」
「ゼンこそ卑怯だぞ!」
ポチは大きな枕の下に頭を突っ込みました。とても聞いていられません。これが金の石の勇者とその相棒の会話だというのですから……。
子どもたちの部屋の騒動は、階下のゴーリス夫妻の部屋まで聞こえていました。小さなテーブルを囲んで、夫妻と銀色の髪の青年が酒のグラスを傾けていましたが、あまりの賑やかさに、とうとう顔を見合わせて苦笑いをしました。
「まったく、あいつらと来たら。まだ荒野のど真ん中にでもいるつもりだな。近所迷惑ってのを考えんか」
とゴーリスがぼやくと、銀髪の占い師も肩をすくめました。
「事件がすっかり解決したので、勇者殿たちもホッとされたのでしょうね。まあ、お気持ちはわかりますが――」
それにしてもうるさいですね、と言いたげな占い師でした。
すると、ゴーリスの奥方のジュリアがほほえんで言いました。
「あの子たちはまだ十三歳ですわ。こちらのほうが本当の姿でしょう」
「本当の姿か」
ゴーリスがまた苦笑いをしました。
「俺の知っているフルートは、まずあんな口喧嘩はやらかさなかったぞ。ガキのくせに、いつだって分別のある大人みたいに落ちつきはらっていて、誰に何を言われようが、知らん顔で受け流していた。多分、今だってそうだろう」
「あら、それじゃどうして――」
「相手がゼンだからだろう」
とゴーリスは答えると、ふふん、と笑って酒のグラスを口に運びました。
銀髪の青年も、意味ありげに笑ってうなずき返しました。
「男は好きな女性ができると急に見た目を気にし始めますからね。正直な男ほどそうです。あのお二人は本当に素直ですよ」
あらまあ、とジュリアはつぶやき、急に静かになった子どもたちの部屋を見上げました。少し考えてから、こう言います。
「あの子たちは将来、誰と一緒に自分の人生を歩くようになるのでしょうね……?」
「それはまだまだ先の話だな。それこそ、あいつらはまだたった十三歳だ」
とゴーリスが言えば、占い師も穏やかに答えました。
「わたくしの占盤にも、その答えは現れないのです。勇者殿たちがこの後、どんな人生を歩んでいくのかは、どうしても見ることができません。勇者殿たち自身がご自分の足で切り拓いて決めていくことなのでしょう」
「天下一の占い師にも見通せない人生を進む勇者たちか。いかにもあいつららしいな」
とゴーリスは笑い、それから、急に真顔になって続けました。
「俺たちはただ、その旅路が無事であるようにと祈るばかりだな」
他の二人の大人たちは、そのことばに黙ってうなずきました。勇者の子どもたちの歩む道が、どんなに危険で困難であっても、彼らは本当にただ、祈ってやることしかできないのでした。
フルートとゼンはベッドの上に仰向けになっていました。どちらも口をとがらせて、ふてくされたような顔をしています。
「ちぇーっ、マジで一ミリも違わないのかよ! そんなのって、ありか?」
とゼンが言えば、フルートが答えます。
「だって、十回も測り直してそうだったんだから、しょうがないじゃないか。認めるしかないよ」
「ちきしょう。明日の朝、測り直したら、一ミリくらい違ってるんじゃないか?」
「いくらなんでも、そんなに早くは伸びないさ――」
そのまま二人とも黙り込んでしまいます。
ポチは首をかしげました。がっかりしている二人には悪いのですが、二人がまったく寸分違わない身長だと言うことが、なんだかポチにはとても嬉しかったのです。ポチにとっては、フルートとゼンは、どっちが上でも下でもありません。二人とも大好きな友だちなのです。
すると、ゼンがうなるように言いました。
「俺はあきらめないからな。絶対に、いつかおまえを抜いてやる」
「人間がドワーフに身長で負けたら、いいところは何もないじゃないか。ぼくだって、絶対にあきらめないよ」
とフルートが言い返します。妙にきっぱりした口調です。
ふと、ポチはそれと同じようなやりとりを前にも聞いたような気がしました。身長の話ではありません。ゴーリスの屋敷の中庭で、フルートとゼンの二人が、一人の少女を巡って男の約束をしていたときです……。
ああ、そうか、とポチは気がつきました。だから、フルートもゼンも、お互いに相手に負けたくないんだぁ……と。
突然、がばとゼンがベッドから身を起こしました。フルートをのぞき込むようにして迫ります。
「いいか、見てろ! この次会ったときには、必ずおまえを抜いてるからな!」
フルートも跳ね起きると、負けずに言い返しました。
「ぼくの方こそ! 絶対に次には君を抜いているから!」
そして、二人の少年は間近でにらみ合い――ふいに同時に吹き出してしまいました。笑って笑って、声を上げて笑い転げて――
そうして、フルートは言いました。
「また会うときが楽しみだね、ゼン」
「おう、楽しみだ」
ゼンも満面の笑顔で答えます。
ポチはそんな二人を見守りながら、黙って尻尾を振り続けていました。喧嘩するほど仲がいい。そんなことばが浮かんできます。
別荘は夜の静寂に包まれていました。
天空には満天の星がまたたいていました。
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学校が終わった後、フルートは町の大通りを家に向かって歩いていました。赤いレンガを敷き詰めた東の街道です。人通りは多いのですが、大半は町を通り抜けて別の場所へ向かう旅人たちでした。
フルートの足下を子犬のポチが歩いていました。ポチは毎日、授業が終わる時間に合わせて学校までフルートを迎えに来ます。ポチがフルートの家に一緒に住むようになってから一年半、ずっと欠かすことなく続いている習慣でした。
ちょうど午後のひと休みの時間帯でした。あちこちの門口に人の姿があって、煙草を吹かしたり、お茶を飲んだりしながら、のんびりおしゃべりを楽しんでいます。
そんな中から、眼鏡の男が通り過ぎていくフルートたちに声をかけてきました。
「やあ、フルート、学校が終わったのかい? ポチも毎日お迎えご苦労様だな」
「ワン、こんにちは、ドラスさん。別に苦労じゃないですよ。フルートのお迎えはいつも楽しいんです」
とポチが答えました。ポチは半分天空の犬の血を引いているので、人のことばが話せます。以前は化け物扱いされて人間から追い回されたし、フルートのところへ来た当初もずいぶん町の人たちから驚かれたものですが、今ではシルの町の人たちもすっかり慣れてしまって、なんということもなくポチに話しかけてきました。
ドラスのとなりで黒茶を飲んでいた半白髪の男が、ポチの返事を聞いて笑いました。
「まったく忠義なワン君だなぁ。フルート、いいペットを見つけたもんだな」
すると、フルートは少女のように優しい顔をにこりとほころばせて答えました。
「うん。でも、ペットなんかじゃないですよ。ポチはぼくの弟なんです」
とたんに、そこに集まっていた男たちが、どっと笑いました。
「弟か!」
「また珍しい弟だなぁ、フルート!」
町の人たちはフルートが金の石の勇者なのも、ポチがその仲間なのも知っています。でも、彼らの目に映る少年たちは、ごく当たり前の格好をした小柄な子どもと子犬で、世界を救うような英雄たちにはとても見えません。フルートが真剣であればあるほど、大人たちは面白い冗談でも聞いたように感じるのでした。
でも、それもいつものことです。フルートはそれ以上は何も言わずに、ただほほえんだまま、ポチと一緒に大人たちの前を通り過ぎていきました。
歩きながらポチがフルートを見上げました。
「ワン、ぼく、フルートに弟って言ってもらえるのは嬉しいんですけどね。でも、どうしたってフルートの弟のわけないんだもの。ああ言うといつもからかわれるんだから、言わない方がいいですよ」
すると、フルートは真面目な表情になりました。
「言っちゃいけないかい? ぼくは本当にそう思ってるんだけど」
「本当に、って」
ポチは思わず吹き出してしまいました。優しい優しいフルートです。いつだって、人にも動物にも分け隔てなく、友だちのように接してくれます。
「ぼくは犬ですよ? ポポロとルルみたいに小さいときから一緒に育ってきたわけでもないし。大丈夫ですよ。弟だなんて言ってくれなくたって、ぼくはいつだってフルートのそばにいますから」
「そうじゃなくて――」
フルートは言いかけて、困ったように口をつぐみました。なんと説明したらいいのか分からない、そう言いたそうな表情でした。ポチは尻尾を大きく振ると、フルートに飛びつきました。抱きしめてもらった格好で、伸び上がって顔をぺろぺろとなめます。
「ぼくはフルートに友だちだと思ってもらえていたら、それで充分なんですよ。ぼくは、フルートのそばにさえいられたら、それでものすごく幸せなんだもの」
フルートは、ちょっと困惑したようにほほえみ返しました。もの言いたげな、でも、それがことばにならないもどかしさの漂う微笑でした。
すると、ふいに近くから声をかけられました。
「よう、フルート。ずいぶん楽しそうじゃないか」
フルートとポチは、はっと声のほうを見ました。大通りから少し奥まった場所にある小さな広場に、数人の少年たちがたむろしていました。フルートたちを見る目は、どれも馬鹿にするような笑いを浮かべていて、全然好意的ではありません。学校の不良グループです。あっという間に二、三人がやってきて、広場の中にフルートを連れ込んでしまいます。
二年くらい前までは、フルートは毎日のようにこういう連中に絡まれていました。小柄で女顔のフルートは、おとなしい性格のせいもあって、いじめやからかいの格好の標的にされていたのです。あの頃リーダーをやっていたジャックが、最近ではすっかり騒ぎを起こさなくなり、グループにもめったに顔を出さなくなったので、フルートがいじめられるようなこともなくなっていたのですが、ここ二、三ヶ月の間にグループに変化が生じていました。メンバーの入れ替えが起こって、新しい少年たちのリーダーに、当時副リーダーだったペックが台頭してきたのです。
ペックは、今でもフルートを嫌って目の仇にしていました。フルートが金の石の勇者なのは知っています。けれども、フルートは相変わらず小さくて女のようになよなよしていて、とてもそんなすごい奴には見えません。ペックは、金の石の勇者の話を、単なる噂話、事実を誇張した作り話に違いないと思っていました。新しくグループに入ってきた少年たちも、同じように、英雄扱いされるフルートを面白く思っていない連中ばかりです。彼らは二年前のように、なにかというとフルートに難癖をふっかけ、思い切り叩きのめして「思い知らせる」機会を狙っているのでした。
フルートは思わず溜息をつきました。二年前と違って、フルートはもう、彼らに負ける気はしません。でも、フルートとしては必要もない喧嘩や争いは起こしたくないのでした。彼らに金の石の勇者としての実力を見せつけてやろうという気もありません。
すると、そんなフルートの気持ちを察して、ポチが呼びかけました。
「ワンワン、フルート、急いで帰りましょうよ。お父さんが牧場を手伝ってほしいって言ってましたからね」
とフルートをその場から連れ出そうとします。
とたんに、そばにいた少年のひとりがポチを蹴飛ばそうとしました。
「生意気な犬コロ、畜生のくせに人間様に口出ししてくるな!」
けれども、ポチが素早く飛びのいたので、少年は空を蹴り、勢い余ってひっくり返ってしまいました。それを見て、仲間の少年たちが、どっと笑います。ペックもあきれたように笑っていました。
ひっくり返った少年が、顔を真っ赤にして起き上がってきました。
「このぉ……よくも」
とわめくなり、いきなりそばに捨ててあった廃材をつかんで、ポチに向かって振り下ろしてきます――。
ガツッ。
鈍い音がして、廃材が止まりました。太さが十センチもある材木は、ポチの体には届いていません。一瞬早くフルートがポチと少年の間に飛び込み、手にしていた教科書で材木を受け止めたのです。
材木を振り下ろした少年は目を見張りました。仲間内でも大柄な方の少年です。体格でも力でも圧倒的な差があるはずなのに、フルートは本の盾を構えたまま微動だにしないのです。どんなに腕に力をこめて押し切ろうとしても、まったく動けません。
と、フルートの眼が青く光りました。少女のように優しかった顔が、それまで見たこともなかった厳しい表情に変わります。大柄な少年が思わずひるんだ瞬間、フルートがかけ声もろとも、勢いよく本を突き上げました。
「はっ!」
材木が跳ね上がりました。フルートの小柄な体がぱっと半回転し、片足が上がって少年の手元を蹴り上げます。とたんに、材木は大きく宙を飛んで、狭い広場の奥に落ちていきました。
少年たちは茫然と目の前の光景を眺めていました。小さなフルートが、自分の倍もありそうな少年の攻撃を受け止めただけでなく、その手の材木を蹴り飛ばしてしまったのです。本当に、あっという間のできごとでした。
ところが、フルートは我に返った顔になると、とまどったように体を起こしました。ここまでやるつもりはなかったのに、つい体が動いてしまったのです。しまった、と思わず顔が青ざめます。
その様子を、不良少年たちはフルートが怖じ気づいたのだと勘違いしました。急に勢いづくと、てんでにフルートに向かって身構えます。
「どうやら痛い目に遭わないとわからないらしいな、フルート」
とペックが拳を握りしめて凄みます。その後ろには、廃材や棒きれを手にした少年たちが並びます。フルートはますます弱り果てました。困りました、どうしましょう……。
その時、しゃがれた少年の声が広場に響きました。
「何やってるんだ、てめえら! 俺に断りもなく、何の騒ぎだ!?」
ジャックでした。広場の入口に立ち、殺気立っている一同をにらみ渡しています。めったにグループに出てこなくなっても、ジャックはやっぱりリーダーでした。少年たちは悪いことをしているところを見つけられた子どものように、青くなって後ずさりました。ペックでさえ、ばつの悪そうな顔で視線を逸らします。
「別に……フルートがあんまり生意気言いやがるから、ちょっと注意してやってただけだぜ」
と答えます。けれども、もちろんこれは真っ赤な嘘です。フルートは一言だってペックたちとことばをかわしていないのですから。
ジャックにもそれはすぐわかったようでした。疑わしい目でペックを見ると、こう言いました。
「わかった。俺が話をつけといてやる。てめえらはとっとと帰れ」
ことばにならない不満がその場に一気に広がりました。ジャックがフルートを叩きのめそうとしないのが面白くないのです。とたんにジャックが声を張り上げました。
「なんだ、てめえら! 俺のすることになんか文句でもあるってえのか!?」
有無を言わせない迫力のある声がまた響き渡ります。さすがの少年たちも思わず首をすくめると、手にしていた材木や棒きれを投げ捨て、ぞろぞろと広場を出ていきました。一番最後になったペックは、ジャックのかたわらを通り過ぎるとき、何も言わずにジャックをにらみつけていきました。その目は「意気地なしめ」とリーダーを非難していました――。
通りを遠ざかっていく手下たちの後ろ姿を見送りながら、ジャックがつぶやきました。
「馬鹿どもが……」
フルートはジャックに向かって丁寧に言いました。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
ジャックはつまらなそうな顔で答えました。
「おまえを助けたわけじゃねえよ。あいつらに怪我をさせたくなかっただけだ。勘違いするな」
「だから、助かったって言ってるんだよ。かかってこられたら、相手をしないわけにはいかなかったからね。ありがとう」
ジャックは渋い顔になって、つくづくとフルートを見ました。本当に、十三歳にもなっているのに相変わらず小さくて女の子のような顔をしたヤツです。こんななりで巨大な怪物や魔の敵と戦えるほど強いとは、ペックたちでなくても信じられないのは当然な気がします。……が、そもそもの始まりに、フルートと一緒に魔の森へ金の石を取りに行ったジャックは、フルートの実力というものを思い知っているのでした。
「まったく。本当に、やなヤロウだぜ、おまえは」
そうぼやくと、ジャックは広場から立ち去っていきました。
ポチが心配そうにフルートを見上げてきました。
「ワン、大丈夫でしょうか? ペックたち、絶対にまた何か仕掛けてきますよ。ジャックにもっと注意させた方がいいんじゃないですか?」
フルートは穏やかに笑い返しました。
「そこまでのことじゃないよ。これからは今までより気をつけるし、大丈夫だよ」
「ワン、そりゃフルートだもの、あんなヤツらに負けるわけはないけど……」
言いながら、ポチはさっき、フルートが自分を助けに飛び込んできてくれた場面を思い出していました。とっさに教科書を盾にして材木を防いでいましたが、あれがなければ、きっと本当に自分の体でポチをかばってくれたのです。今は鎧も何も身につけていないのに。
ポチは思わずフルートに小さな自分の体をすりつけました。
「ワン、お願いですから無茶はしないでくださいよ。ぼくのことなら心配ありません。いざとなったら風の犬に変身できるんですからね」
「うん、わかってる。ぼくが間に合わない時には、自分で自分を守ってよね。だけどさ、間に合うときには、ぼくにも君を守らせてよ」
ポチが不思議そうにフルートを見返しました。ぼく、いつだって大丈夫ですけど、と言いたそうな顔をしてきます。フルートは思わず笑いました。ちょっと照れたような笑顔でした。
「だってさ、兄貴は弟を守りたいもんなんだ。本当は弟の方が強かったとしてもさ……そういうものなんだよ」
「フルート」
ポチは何も言えなくなってしまいました。
フルートはほほえんだまま、ぽん、と子犬の頭に手を置きました。
「さ、家に帰ろう。お腹空いちゃったよ。お母さんがケーキを焼いてるはずだから、それを食べてからお父さんの手伝いに行こう」
手のひらからも声からも、フルートの暖かさが伝わってきます。
その瞬間、ポチはふいに考えてしまいました。もしかしたら、フルートは、本当にぼくのことを弟だと思ってくれてるんじゃないかしら……と。考えてしまって、あわてて、ぶるぶるっと頭を振ります。そんなことは、ちらと考えるだけでも不遜なことのような気がしました。自分はフルートの友だち。フルートたちの家族。それだけでもう、充分すぎるくらい幸せなのに――。
「どうしたの?」
手を振り払われたように感じて驚いたフルートに、ポチは尻尾を振りながら、ワン、と元気に吠えました。
「急ぎましょう、フルート。きっとお父さんが待ちかねてますよ」
笑うような顔でそう言うと、ポチは先に立って駆け出しました。何だかとても幸せで、とってもとっても幸せで、ワンワン吠えながら、そっちこっちと飛び跳ねてしまいます。
「ポチったら――待ってよ!」
フルートがあわてて後を追いかけてきます。そうして、少年と子犬は駆けていきました。はしゃぎながら、声を上げて笑いながら、荒野に面した自分たちの家へ一緒に帰っていきました。
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北の峰の森を、ゼンは一人、獲物の足跡を追い続けていました。
銀ギツネは利口です。藪の中、しぶきを上げる沢、岩場や崖を次々に渡り歩いて、巧妙に自分の足跡を隠そうとします。足跡を見失う度に、ゼンは後に戻り、また丹念に足跡たどり直します。どんなに獣が撒こうとしても、猟師の少年は必ずまた正しい行方を見つけ出すのです。互いの姿は見えません。けれども、猟師の少年とキツネは、こうしてもう半日以上も追いつ追われつを続けているのです。
ゼンの背中には、狙ったものを絶対に外さない魔法の弓矢があります。獲物が姿を見せさえすれば、たちまち仕留める自信がありました。長い追跡劇に、キツネは疲れ始めています。そろそろ、捕獲のチャンスに恵まれる頃合いでした。
ところが、小さな沢を渡ろうとしたゼンが、ふと、足下に目を止めました。流れのそばのぬかるみに、真新しい獣の足跡が二つ残されています。ひとつは標準的なサイズの銀ギツネの足跡です。もうひとつも確かにキツネの足跡ですが、先のものよりずっと小さくて、まるで生まれたての子犬の足跡のようでした。
ゼンは意外な顔で身を起こしました。
「子連れだったのか……」
と誰に言うでもなくつぶやきます。
子どもを連れた獣では狩ることはできません。それは、ゼンたち北の峰の猟師の取り決めでした。猟師たちは山の獣たちを追い詰めて殺しますが、それでも、乱獲で獣たちが全滅させないように、細かい取り決めをいくつも作って守っているのです。
ゼンは苦笑いをして、行く手を見ました。沢の先の斜面を登っていく小さな獣の姿が、ちらりと藪の中に見えたような気がします。弓矢を構えるわけにはいきませんでした。
「やぁれやれ。半日が無駄になっちまったな」
ゼンは苦笑いのまま、沢のそばの石に腰を下ろしました。枯れ枝をかき集めてたき火を起こします。空には夕暮れが迫っています。もうここで夕飯にして、野宿する場所を探した方が良さそうでした。
まずは黒茶を入れるのにお湯が沸くのを待つ間、ゼンはまた、沢に残ったキツネの足跡を眺めました。本当に、まさか子連れだったとは思いもしませんでした。ずっと、親狐の足跡しか残っていなかったのです。ということは、子狐をずっと口にくわえていたのです。銀ギツネはメスが一匹で子育てをするので、まず間違いなく母狐でしょう。母狐が子狐を口からぶら下げて、藪をくぐり、岩を飛び渡り、沢を越えていく様子を想像して、ゼンは思わず頭を振りました。
「ったく……母親ってのはすごいよな」
本当に、誰ひとり聞く相手はいないのに、そんなふうに思いを声に出します。
延々と半日も子狐をくわえたまま歩き続けた母狐。後を追ってくる猟師の気配におびえながら、それでも我が子と自分の命を守るために逃げ続けます。この沢まで来て、ついに咽の渇きに勝てなくなったのでしょう。母子で沢の水を飲み、またすぐに先へと逃げたのですが、その時に、二つの足跡を残したのでした。
ゼンは溜息をついて膝を抱えました。なんだか、急に胸の中が空っぽになったような、不思議な気持ちがします。ゼンは自分の母親を知りません。ゼンが生まれて間もなく病気で死んでしまったので、母親の顔さえ覚えていませんでした。キツネにだって母ちゃんはいるのになぁ……と思わず考えて、自分でそんな自分に苦笑いしてしまいます。今さらそんなことを思ってもしょうがないのに、夕暮れの薄暗さも手伝ってか、今日は何だか妙に淋しさが身にしみます……。
森の中は静かでした。同じ北の峰にゼンの父親や仲間の猟師たちも猟に入っています。けれども、彼らは狩猟中には、それぞれの持ち場を固く守って、他人の狩り場には絶対に足を踏み入れません。同じ山にいながら、父親や仲間たちの気配を感じることはないのでした。
ゼンは木の枝でたき火をつつきました。小さなヤカンが湯気を立て始めています。燃える火を見ながら、ゼンは仲間たちの顔を思い浮かべました。フルート、ポチ、メール、ポポロ、ルル……。今はそれぞれの場所に散り散りになっている友人たちです。みんな、今頃どうしているんだろうな、と考えます。
フルートとポチはシルの町で、フルートの両親と一緒に過ごしているはずです。ポポロとルルは天空の国で、ポポロの両親と一緒にいます。メールは渦王の島で、また人魚たちと口げんかをしているかもしれません。
ちぇ、とゼンはつぶやきました。なんだか自分だけがたった一人でいるような、そんな気持ちがしてきます。
すると、メールの声が聞こえてきました。
「なにしょぼくれてんのさ。らしくないよ、ゼン」
もちろん、それは本当の声ではありません。ゼンが頭の中で想像しているだけなのです。緑の髪に気の強そうな青い瞳の海の王女が、自分のすぐ目の前の石に座って、ゼンをのぞき込んできたような気がします。
想像の中でゼンは顔をしかめ返しました。
「誰がしょぼくれてるってんだよ。目がおかしくなったんじゃないのか。若いくせにもう老眼かよ」
「老眼ってなにさ! ゼンこそ見えてないのかい? ほら、すごい夕焼けだよ」
いるはずのない少女に指さされて、ゼンは空を見上げました。一面燃えるような夕焼け雲が広がっています。薄紅の空に押し寄せては流れていく、赤金色の雲の波です。それは、これまで何千回と山で夕暮れを見てきたゼンでさえ、思わず息を飲むほど美しい夕映えでした。空の中を、最後の太陽の光が金の筋になって走っていくのが見えます――。
「北の峰はいいとこだよね。こんなに綺麗な景色を見せてくれるんだもん」
メールがそう言ったような気がしました。ゼンは思わずまた目の前を見つめ直しました。誰もいません。ゼンはやっぱりひとりきりです。
ちぇ、とゼンはまたつぶやいて苦笑いしました。これはゼン自身の空想です。でも、実際にメールがこの場所にいたら、きっとその通りのことを言ったのに違いないのです。
あいつにもこの夕焼けを見せたいなぁ、とゼンは考えました。その時、ゼンの脳裏に浮かんでいたのは、黒衣の小さな少女ではなく、緑の髪に青い瞳の、自然を愛でる姫の姿でした。
けれども、彼女の住む西の大海は、世界の裏側にあります。どんなにゼンが想いをはせても、声を限りに呼び続けても、決して届くことのない遠い遠い彼方でした――。
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