海の王の休息・6「怪物の話」
微妙に体調不良が続いていて、昨日も裏話の更新ができませんでした。
でも、今朝起きてみたら、やっと少し体がしっかりしてきた感じ。台風も通過したし、ようやく調子が戻ってきたかもしれません。(低気圧や湿気に弱いんです)
さて、今日の裏話は、「フルート13」に出てきた怪物たちについて。
まずは、いつものお断りから。
この先には物語の内容に関する重要な記述があるので、まだ本編を読んでいない方はご注意ください。
いつもたくさんの怪物が登場してフルートたちに襲いかかるのが「フルートの冒険」ですが、今回の「13」は、その中でも特に怪物や敵の数が多い物語でした。
なにしろ、主人公はゼン。物語はアクション、アクション、アクションの連続。敵との戦闘だらけのストーリーで、しまいには、作者もどんな敵をどんなふうに登場させたのか、一つ一つは思い出せなくなってしまいました。いつもはフルートや他のキャラクターが主人公になるし、そうなれば心理描写の場面もいくらか入ってくるのですが、今回の「13」はそれもほとんどなし。動きが多くて展開の早い物語だったので、少年漫画的だった、と言えるのかもしれません。前作「12」がオリバンとセシルのロマンス中心の、どちらかと言えば少女漫画的内容だったのとは、対照的でした。
さて、その怪物たちの話ですが、数多く登場した中でも特に印象深かったものについて書きたいと思います。
今回私が一番力を入れて描いたのはこれ――
シュアナ
きゃぁ、「あたしを怪物に入れないでよ!」って、シュアナちゃんが怒った!
でもね~、人魚はりっぱに怪物なのです。
どうしてもアンデルセンの「人魚姫」のイメージが強いから、優しくて綺麗なキャラクターのイメージが強いけれど、本来の人魚は海の怪物。女の体に鳥の翼を持つセイレーンやハーピィ、川の精霊ウンディーネやローレライと同じ水棲女性形の怪物で、美しい歌声で人間(特に男性)を誘惑して海中に連れ去る、と恐れられていました。それを、あんなにかわいらしいお姫様にしてしまうんだから、アンデルセンはすごいと思いますが。
でも、「フルート」はできるだけ怪物を本来のイメージで描くことを心がけているので、シュアナはアンデルセンよりもっとダークになっています。でも、やっぱりかわいらしさは入ってきちゃいましたねぇ。健気なくらい魔王のアムダ一筋で。
ダークだけど、かわいくて無邪気で一途な、うちの人魚姫。その後、自分の庭でどうしているのかな~、と私も思いめぐらします。美しくて怖い情景が頭に浮かんできますが……。(苦笑)
さて、次に印象的だった怪物は、これ。
ウンディーネ
きゃ~。ウンディーネも「怪物にしないで!」って怒った~。
だって、魔王が呼び出したウンディーネは、どう見たって怪物だったでしょ!
怪物を本来のイメージ通りに描くはずの「フルート」が、魔王に呼ばれたウンディーネだけは、女版半魚人というような醜い姿。そのわけは……というところでございます。(笑)
ウンディーネは、正確には水の精霊のこと。世界を作る四大元素を象徴する一つなので、怪物に入れてしまうのは、本当にかわいそうかもしれません。
ちなみに、四大元素の精霊は、火のサラマンドラ、水のウンディーネ、土のノーム、風のシルフィード。今回の物語にはシルフィードたちも登場したので、これで四つ全部登場させることができました。ウンディーネは、別にこのタイトルで推理小説(探偵アップル事件簿「ウンディーネ」)を書いたくらい、お気に入りの精霊だったので、密かにとても満足している作者です。(笑)
アンドロギュノス
これはあまり聞いたことがない怪物だったと思います。正確には、怪物ではありませんから。
物語を連載中にここでもちょっと書きましたが、古代ギリシャの哲学者プラトンが「饗宴」という本の中で書いているもので、「人間」のことです。
いわく、大昔、人間は2人が背中合わせでつながっているような姿をしていた。その組み合わせは、男+男、女+女、男+女の三通りあって、二つが一つになっているために力も強く、ギリシャの神々に挑戦をするようになっていった。そのため、神の国を脅かされるのを恐れたゼウスが、彼らを二つの体に分離し、そのため、男と女は常に自分の半身を探し求めるようになった。このため、男と女は愛し合うのだ、というような内容です。じゃ、男と男、女と女に別れてしまったアンドロギュノスたちはどうなったんだろう? とか考えたりもしますが……。
自分が完璧だと思いこむあまりに、おごり高ぶって神に挑み、罰を受けて引き裂かれる。これは、聖書に出てくる「バベルの塔」と共通のテーマだな、とも思います。「フルート」では、そんなうぬぼれたアンドロギュノスの姿を描いてみました。
なお、アンドロギュノスは、医学的には両性具有(半陰陽)のことを示すそうです。
スキュラ
これもあまり知られていない怪物。マイナーですね。
今回、海や水に関係する怪物を探し回って見つけたものです。ギリシャ神話に登場します。
彼女は元々は普通の美しい女性でした。大勢の男性から求婚されていたのですが、ある時、海の神グラウコスが彼女に恋をしてしまいます。ところが、グラウコスは姿が醜かったために彼女に拒絶され、魔女キルケーに恋の成就を願います。ところがところが、このキルケーのほうがグラウコスを好きになってしまった。自分を好きでもない女を好きにさせるより、自分を好いてくれる人と結婚しなさいよ、とキルケーは言うけれど、グラウコスは彼女を全然顧みない。嫉妬と怒りに燃えたキルケーはスキュラに呪いをかけ、彼女がいつもの入り江で水浴びすると、その下半身が魚に変わり、腹のあたりからは6つの犬の頭と12本の犬の足が生えてきた。 嘆き悲しみ、凶暴な性格に変わってしまったスキュラは、シケリア島の近くで、島のそばを通る船を犬の頭で襲って、乗組員を奪い取る怪物になってしまった――。
スキュラ自身はただグラウコスの姿が怖くてどうしても愛せなかっただけなのに。一番かわいそうなのは彼女だよなぁ、と思います。
これだけで一つの物語が書けそうなくらい、男女愛のすさまじさを秘めたエピソードなのですが、「フルート」では、本人が最後にちらっと自分の過去を語る程度に留めておきました。
怪物以外の敵
怪物以外にも、海の生き物の敵がいろいろ出てきました。
大半は魚系の敵でしたが、そのほとんどは実在する生き物です。バラクーダ(オニカマス)、シャチ、フウセンウナギもサイズは大きくなっていますが実在する深海魚、ダイオウイカに至ってはサイズもあの通りの大イカです。海虫も本当にこんな感じの生き物がいるのですが、何という名前か控えておくのを忘れて、わからなくなってしまいました。
「罠」の章に出てきたフクロモは、本当の名前はフクロノリ。海草ですが、本当に風船みたいに空気が入っていて、波間を漂います。海を見に行ったときに海岸で見つけて、「これはぜひ物語に使おう!」と考えたのでした。ただ、フクロノリというと、なんだか糊貼りして袋作りの内職をしているみたなので、名前をちょっと変えました。
逆に私が考えた敵は、最初にフルートたちが戦った鎧の魚ことカッチュウザメ。ヨロイザメという魚は実在するのですが、あそこまで強力な体をしていなかったので、オリジナルで。カイ、マーレ、シィたちシードッグも、一応私のオリジナルだったりします。シンガポールのマーライオンの犬版という発想なので、どこにでもいそうですけどね。(笑) なお、これも以前ここのコメントで書きましたが、英語でシードッグと言うと、ラッコのことを意味します。
とまあ、怪物の設定やその情報を書いていると、本当にきりがないので、ここまでにしましょう。
相変わらず、怪物にも愛を! の「フルートの冒険」ですが、個々の怪物の場面を楽しんでいただけたら、作者はとても嬉しいです。
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コメント
>アンドロギュノス
登場した瞬間、"アシュラ○爵"を思い出したのは…
私だけかしら~
…いやん、トシがバレる~(笑)
投稿: ぺちゃん | 2009年9月 1日 (火) 13時31分
アンドロギュノス、どこかで聞いたと思っていましたら
そこでしたわ~ <いやぁ、記憶がカビてまして・・・
スキュラは他で知識があって、
おぉ~、懐かしい♪ と思ってました。
ウンディーネは出てこなくちゃね。
サラマンドラまで出て来てましたし
しっかり、怪物オタクです。はい。
え、まだまだいるって?
それは、朝倉さんに頼んで下さい~ヽ(*≧ε≦*)φ
>私の中の空想の怪物様達からのお願いでした(爆)
投稿: さゆた | 2009年9月 1日 (火) 13時57分
>ぺちゃんさん
いや~ん。
わざとその名前は挙げないでおいたのに。
フルートたちを倒すのに失敗したとき
魔王の前に身を投げ出して「申し訳ございません!!」と言わせたいのを
懸命にこらえていたのよぉ~。(爆)
投稿: 朝倉玲 | 2009年9月 1日 (火) 14時40分
>さゆたさん
アンドロギュノス。
私は高校の倫理社会の資料集で読んだ覚えがあります。
意味深いなぁ、と。
ベターハーフ(伴侶)ということばはここから生まれたんだ、とも
書いてあったような、なかったような……(記憶はおぼろ)
スキュラ。
「聖戦士○矢」?(爆)
あっちは犬じゃなくて、他の動物6つの頭だったみたいだけどねぇ。
怪物、好きなのよねぇ~。
今度の話には何を出そうかな……(笑)
投稿: 朝倉玲 | 2009年9月 1日 (火) 14時44分
>魔王の前に身を投げ出して「申し訳ございません!!」と
あ~目に浮かびますぅ~(爆)
そうそう、いっつもマジ○ガーZを倒すのに失敗して
大謝りしてましたよね~。
やってくれたら、一気に物語があらぬ方向へ…ですな
投稿: ぺちゃん | 2009年9月 1日 (火) 17時11分
>ぺちゃんさん
そうそう。
その誘惑はものすごく強くて~。(爆)
だいたい、話すときに
男と女が同時に同じことばをしゃべる、ってのを
やりたくてやりたくてやりたくて……
で、最後にちょっとやらせちゃった。
投稿: 朝倉玲 | 2009年9月 1日 (火) 17時33分