昨夜、旦那は新年会で泊まりだった。昇平も早く寝てしまったので、私はまた起き出してきて、二階の居間でお兄ちゃんと一緒にいた。お兄ちゃんは宿題も学校で終わらせてきたとかで、機嫌良くテレビゲームをやっていた。
旦那が新年会なら、私もついでに、というわけで、缶ビールなど開けながらパソコンのモニターを眺めていたら、お兄ちゃんが言った。
「一口味見ー♪」
これこれ、キミは未成年。……って、まあ、なめてみるくらいならいいか。(笑)
キミの性格はわかっているから、ビールの味見をしたくらいで、隠れて飲酒したりするようにならないのはわかっているからね。これも社会勉強。味見してみなさい。
そんなことから気持ちがほぐれてきたのか、久しぶりにお兄ちゃんがいろいろ話し始めた。学校のこと、帰りの電車で一緒になる同級生のこと、その子の性格、自分が今考えていること。
「友だちは多い方がいいのかな?」なんて疑問をぶつけてきたりもする。今まで当たり前のように思っていたことを、自分なりに見つめ直す時期にさしかかったらしい。もう16歳だもんね。そういう時期だ。
だから、こちらもごく真面目に答えを返した。
「必ずしも友だちを大勢作る必要はないと思うよ。特にこれからはね。人数よりも、どんな人とどのくらい深く関わっていくか、のほうが大事になっていくんだよ」
「俺、実は友だちは多い方がいいと思っているんだけど」
そう、キミは本当に友達を作るのが上手。たいていの人とすぐに仲良くなって、いろいろ話したり、一緒に遊んだりできるようになる。向こうもキミを好いてくれることが多い。キミは相手の気持ちを配慮するのが上手だからね。
「友だちが自然にたくさんできるんなら、それはそれでいいいんだよ。それはすばらしい才能だから。ただ、友だちは多くなくちゃいけないと『思いこんで』、友だち作りに必死になるような子もいるけれど、そこまでする必要はないと思うよ、っていうことなんだよ」
若いキミたちの思考は、かなりオール・オア・ナッシング。すぐに一方から一方へ、極端な考え方に飛ぶんだよね。そこを「ほどほどに」と教えていくのは、大人の役目なのかもしれないね。
すると、ふと、お兄ちゃんが聞いてきた。
「お母さんとお父さんはどうして結婚したわけ?」
おお、ついに出たか、この質問!(笑) いつかはきっと聞かれるんじゃないかと思っていたけれど。
すると、お兄ちゃんが続けて、考えるように言った。
「お母さんとお父さんって……本当に夫婦?」
おや?
その言い方が伝えてくるニュアンスに、思わず笑ってしまった。『お母さんたち、とても夫婦のようには見えないよ。』とお兄ちゃんは言っているのだ。
「それじゃ、どんなふうに見えていたの?」
と笑いながら聞き返してみた。
すると、お兄ちゃんはうーん、と言葉を濁しながら、
「なんかこう……あんまり夫婦らしくない。お母さんとお父さんは、本当に仲はいいんだよね?」
と確認してきた。
いやはや、言われたなぁ!(爆)
確かに、私たちは傍目にはかなりあっさりした夫婦に見えるかもしれない。
べたべた一緒にいるわけでなし、仲むつまじく話をするわけでもなし、相手を気遣って何かしてあげることもあまりないし、逆に「ああして」「こうして」と相手に要求することもあまりない。
旦那の休日は、私はパソコン、旦那はゲームかゴロ寝か読書。別に何かを会話するわけでもないし、子どものためでなければ、一緒にどこかに出かけることもほとんどない。ただ同じ部屋にいるだけ。そして、そのそばで子どもたちもてんでに好きなことをしているだけ。
ただ、何かの話題でもりあがったりすれば、議論に花が咲くこともある。旦那と私が過去に盛り上がったネタと言えば、仮面ライダーやウルトラマンと言った特撮ものとか、最近の政治経済動向とか、最近のスーパーの売れ筋商品のこととか、双方で好きな本のこととか……。たしかに、色気はない話題だわね。(笑)
もともと、私と旦那は大学のサークルで一緒の仲間同士だった。実は私の方が一つ年上。「金のわらじ」の姉様女房だったりする。(笑) ただ、サークルに入ったのが私が大学2年の年だったので、入学と同時に入った旦那とはサークルの同期生ということになる。
学生時代は恋人同士でもなんでもなかった。単なるサークル仲間で、他の仲間たちと一緒にわいわい、しゃべったり遊んだり合宿したりしていた。まさか、こんなふうに結婚するだなんて、当時は想像もしていなかった。その延長上にあるから、私たちは今でも「友だち夫婦」なんだよね。
そんな話をお兄ちゃんにしたら、
「じゃ、学生の頃は全然つきあっていなかったわけ?」
「うん。つきあいだしたのはお母さんが卒業してからだよ。学生時代は、本当にただの仲間だったの」
「つまんねー!」
とあきれたようにお兄ちゃん。
まったくもう。(笑)
「実際にはキミが言うほどつまらないことでもないんだよ。最初はただの仲間だった分、お互いに格好をつけたり、いいところを見せようと偽ったりすることがなかったからね。結婚するまでの期間も長かったし。だから、結婚してから『こんな人だとは思わなかった!』なんて相手に失望するようなこともなかったんだよ」
「ふぅーん……」
「お母さんが初めて好きになったのはお父さんだったわけ?」
とまたお兄ちゃんが聞く。おやおや、今日は突っ込むねぇ。(笑)
こちらも、アルコールがいくらか回っていることもあって、なんでもしゃべってやりましょう、という気分になっている。
「憧れた人はその前にもいたけどね。本気で好きになったのは、お父さんが初めて」
「信じらんねー!!」
今時のコウコウセイのお兄ちゃんにはとても理解不能らしい。でも、お母さんたちの頃は高校は男女別学だったし、お母さんも、ついでにお父さんも、こういうことにはすごく慎重な性格をしていたからね。相手を観察して、観察して、その上で「この人なら」と思う人にしか、本気になれなかったんだよね。
「で、お母さんは今でもお父さんと結婚して良かったと思ってるわけ?」
「思ってるよ」
あきれるよなぁ、と言いたげな表情のお兄ちゃんに、私は笑いをかみ殺しながら、そう答えるしかなかった。
キミの描く「夫婦」のイメージって、どんなものなんだろうね。
一緒に買い物に行ったり、デートに行ったり、家では相手を気遣う言動をして、手助けしたり、逆に放っておかれるとすねたりやきもちを焼いたり……そんなのが夫婦らしい夫婦だ、と思っているのかもしれないね。
だとしたら、お母さんは盛大にお父さんにすねて文句を言わなくちゃいけないね。なにしろ、お父さんは朝早くから夜遅くまで仕事仕事。今の職場に異動になって、少しはマシになったけれど、休日出勤だってざらにある。ひどいときにはほぼ一年間、丸一日も休んだことがない、という時期だってあった。何か買ってもらえるわけでもなし、楽しい遊びに誘ってもらえるわけでもなし。昇平のことだって、95パーセントくらいは私がやらなくちゃならないものね。
お父さんのほうだって、言おうと思えばかなりお母さんに文句を言えるはず。仕事から疲れて帰ってきても、起きてきてご飯の準備をしてくれるわけでなし、「お疲れさま」とお酌をしてくれるわけでなし。声をかけることと言えば、「悪いけどファンヒーターのタンクに灯油入れておいてー」なんて頼み事ばかり。
……やっぱり色気がないよねぇ。(笑)
でもね、お兄ちゃん、キミのお父さんとお母さんはね、お互いにとても信頼し合っているんだよ。
他のことはともかく、お父さんは信じている人を裏切るような人間じゃないし、お母さんのほうだってそういう人間のつもり。
仕事で十分に関わる時間はないけれど、お父さんだって、本当はキミや昇平のことをすごく気にかけている。自分にできるときには、ちゃんとキミたちと関わっている。お父さんはね、自分からアピールするようなことはしないけれど、とても優しい人なんだ。「お父さんは真面目すぎるよね」とキミは言うけれど、それ以上にお父さんをお父さんらしくしているのは、その優しさなんだよ。
そばにいられないときでも、ちゃんと気持ちは家族と一緒にいる。それがお父さんだし、それがわかっているから、お母さんだって安心して家でキミたちと向き合っていられる。キミたちの成長ぶりは、お母さんを通じて、ちゃんとお父さんにも伝わっているんだよ。
「夫婦ってパートナーなわけでしょう?」
とキミは言う。
そう、その通りだよ。
そして、そのパートナーって言うのは、安心して自分と一緒に歩いてもらえる人だってことなんだよ。お父さんがそんなふうに一緒にいてくれるから、お母さんは、毎日元気にキミたちの子育てができるんだよ。
……なんてね。(笑)
今のキミには、まだわからない話だから言わなかったけれど。
でも、いつかきっと、キミにもわかるだろう。夫婦の形は夫婦の数だけ、それぞれに違うけれど、お父さんとお母さんみたいに、静かで当たり前な関係だったとしても、それだってやっぱり、ちゃんとした夫婦なんだってことが。
決して、相手をないがしろにした、冷めた関係なわけじゃないんだよ。(笑)
キミはこれから、どんな人たちと出会って、どんなことを感じたり考えたりして、どんな人生を歩いていくんだろうね。
いろんな経験をいっぱいして、いっぱいいっぱい悩みなさい。
悩んで考えた分だけ、それはキミという人間の深みになっていくんだから。
そして、素敵な大人になっていきなさい。
がんばれ、お兄ちゃん。
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